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欲ばり過ぎるニッポンの教育 ( 苅谷 剛彦 増田 ユリヤ )

 最初にお断りしておくと、私は小学校時代は優等生だったが、所謂進学校に入ってから落ちこぼれた。だから、あまり教育について云々する立場ではない。無論専門家でもない。むしろ一種の虚無主義者で、独学の方が重要ぐらいに思っている。 <br /> 本書は、学校の非常勤講師をしながら教育ジャーナリズムにも関わり、且つ、当初は苅谷にいささかの反感をもっていたという増田を相手に、常に中立的で冷静な姿勢で知られる教育学者の苅谷が様々な議論をしていく形で進められる。内容は多岐にわたっている。所謂上流層での英語を中心とした教育熱。教育への過度の期待。学校が社会問題の解決まで担ってきたこと。近年、注目を集めるフィンランドの教育ルポ。相対評価に対する絶対評価の厳しさ。どの話題も参考になる。 <br /> 苅谷の姿勢は一貫していて、教育への過度の期待や理想主義、現状の有限性の無視を戒める。未来が本質的に不可知であることを考慮に入れなければならないという点も指摘されるし、日本の英語教育熱に対する視線も当然ながらシニカルである。他方、乱暴なタカ派的議論も、無論批判されている。 <br /> 彼のこうした姿勢は、基本的に正しいと思う。ただ、その点を踏まえた上で、全く主観的な意見を一点だけ。以前から感じていたことなのだが、彼のような、1950年代後半生まれぐらいの研究者達は、前述通り中立的且つ冷静な姿勢を保ち、敬意のもてる人が多い。しかし、その一方で、なにか妙な冷たさを感じることがある。議論は穏健でも、どこか、人間がもつ弱さとの間に絶対的な壁があるような印象といっていい。こういうのは、単なる非‐エリートの僻みだろうか。

本書より:「いいと思うものをどんどん挙げて、リストにつけ加えていくわけです。こんなふうにできたらいいなということをつぎつぎと書いていくと、そのリストのすべてのことができたときには完璧な人間が育つみたいな考えが、ポジティブリストの考え方です」。この考えが日本の教育をダメにしてきたと、筆者は警告する。まさにその通りだ。 <br /> <br />あれもこれも教育改革で、いろいろなものを学校へ導入しすぎた。その結果、今の学校は消化不良を起こしているのではないか? 興味や考える力を大切にした新しい学力観。いじめや不登校の問題に対応するため心の教育を取り入れた。競争は良くないと言うことで、相対評価をやめて絶対評価を導入した。 <br /> <br />しかし、これらの改革にもかかわらず、なぜ日本の教育はいっこうに良くならないのか? <br /> <br />それは、教育改革を「1+1=2」と考えているからであろう。リストにどんどん足していって本当に日本の教育が良くなるのなら、どんどんリストに加えていけばいい。しかし現実には、何か一つのことをやれば、何かが必ずはみ出てくる。 <br /> <br />「英語を入れるかわりに国語の時間が減りますけど、それでも英語を入れることに賛成ですか?」 <br />そうです、教育改革は欲ばってはいけないのです。

教育に関する仕事の携わるものとして、この本のタイトルには魅かれるものが <br />ありました。 <br />「欲ばり過ぎる・・・」確かに読み進めていけばいくほど、その理由がうなずけます。 <br />例えば、学力世界一と評判の国フィンランドでは <br />高校進学率は60%未満(高校は普通科しかなく、30%は職業学校に <br />行くとか。つまり、進学しない子も10%程度いるのですね)。 <br />日本で高校進学率が60%の時代というと、1960年代だそうです。 <br />その頃の日本の大学進学率は15%程度だったとか。 <br />今の日本は義務教育ではないのに、97%が高校に行くし、大学進学率だって <br />50%という数字が出ています。 <br />フィンランドでは、兵役があるとか、大学の数が少ないとか(21校しかない)、 <br />一度職業についてから大学に行く人も相当数いて、 <br />日本とは違う社会状況なので、 <br />フィンランドの大学進学率については本文中に明記されていませんでしたが、 <br />「大学進学に関して、高校は責任などもたない。そんなストレスフルなことを <br />どうして学校が引き受けなければいけないのか」と著者の方が取材中に <br />フィンランドの高校で言われて驚いた、ということなどを考えると、 <br />国によって教育に対する考え方やとらえ方が違う、ということや、 <br />日本の学校は、あらゆる意味で子どもの将来まで丸抱えして <br />頑張っているのではないか、ということを改めて感じました。

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