本書は古式書簡体で書かれているため多少読み辛く感じるところがありますが、その洞察力には脱帽です。
<br />日露戦争前および日露戦争中の世界は帝国社会であり、侵略するか植民地となるかの何れかであったと言っても過言でない時代だったと思います。その中で軍国政策を中心に近代化を進めてきた幼い日本国が大国ロシアを破ったことに世界中が感動したし、日本こそはアジアの植民地政策の救世主であると感じたことも頷けます。本書はその後の日本が世界に対して行うべき方位性を示唆し、当時、日本が進もうとしている道に警鐘を鳴らすものでした。
<br />しかし結果は泥沼の日中戦争へと進み著者が一番おそれていた日米開戦へと移行していきます。我々は歴史の結果を知っているため、何故当時の日本の政治家が著者の言葉を真摯に受け止めることをしなかったのかについて憤りを感じます。そして当時これだけの洞察力を持った人間が日本にいたことを誇りに思えます。
日露戦争と第一次世界大戦の間に著された、日本外交に対する警醒の書。その内容は世界の歴史と時代状況の客観的把握に基づいたもので、その後の歴史を鑑みると著者の慧眼が証明されているように思える。当時の日本人にこのような人がいたことは、何か日本の知に対して誇りを感じるが、それ以上に人間の知そのものに対する自信さえ与えてくれる。<p> 著者の主張のポイントは、大体次のようになる。東アジアを巡る当時の世界情勢に二つの外交方針が存在した。一つは列強が支那を苦しめつつ相争いて自利を計る政策(旧外交と称す)、もう一つは支那の主権を尊重しつつ諸国民の経済的競争の機会を均等なるべくを謀る政策(新外交と称す)。日本は新外交を方針とし、世界の輿論を背景に日露戦争に勝利したが、満州等において更なる利権を手中にした後には、現存する新・旧外交の矛盾を解消するのではなく、政府は私曲(著者のキーワードの一つ)により旧外交へと逆行し、国民もそれを支持していると批判している。そして、このまま進めば清国を巡り米国と争いになると予言している。
この本を読んで驚愕しました。その正確な分析とその論理的帰結の確かさにです。分析に興味のある人間で、優秀な歴史学者の分析に触れたい人にはこの本をお勧めします。<p>普通、歴史学者は、過去の文献を歴史的な価値により評価して構成しなおし、自己の分析に役立てるというようなことをするのだと、個人的には思います。この本が異色なのは、当時の日常で目や耳にする最先端の情報を分析している点です。それが何十年もたった今では恐ろしく正確な分析であったことに驚くのです。<p>私が最も役に立ったのは、新聞や雑誌等の情報の確かさを見抜くやり方です。例えば、大統領はこの場面でこういう発言をしているが、実際の行動を見てみると、真意はこうこうである、というような分析です。一つ一つの事実を客観的に見つめていくとこんなにすごい分析ができるのかと、感嘆させられる本だと思います。