良いですねぇ…。
<br />間違いなくお気に入りの一冊です。
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<br />バレエ団という華やかで閉鎖的世界における殺人事件。
<br />一般的に余り知られていないバレリーナ達の実情、その限定的範囲内での制約と濃密な人間関係とが、ミステリを構築する上で巧みな働きを見せています。
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<br />そして、何よりも我々の関心を事件に惹き付けて離さなかったものの存在が、本書をただの推理劇で終わらせなかった。
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<br />加賀刑事のバレリーナ美緒に対する想いがどのような決着をもって物語に帰結したかは、クライマックスであるラストに明かされます。最高の切なさを伴って。
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<br />幾多の擦れ違いで生じた悲劇の連鎖、その引き金に他ならないのは人の心の弱さ。
<br />しかし悲劇に幕をおろす強さもまた人の心より生まれる。
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<br />是非とも貴方の目で、眠りの森が目覚めるその余りにも感動的な瞬間を目撃してください。
加賀刑事が男らしくて厭味が無く好感が持てる。
<br />ヒロインへの想いもうまく描かれている。バレエ界という閉鎖された空間では、一蓮托生であるという実情もリアルに書かれていると思う。
<br />私も完全にだまされてしまった一人だが、読み終えて意外なくらい爽快である。それは東野作品には珍しくハッピーエンドだからではなかろうか?
<br />確かにああいう終わり方は切ないのだが、先に続く明るい希望が見えて来る気がしたのは私だけではあるまい。
事件の舞台となったバレエ団が予定している公演「眠れる森の美女」とこの小説「眠りの森」はシンクロしていると感じました。私はこの事件の元凶となった"あの人"のエゴと甘えが憎いと感じました。それさえなければ、犯人は罪を犯すことなどなかったと思います。若き敏腕刑事、加賀恭一郎が惹かれる浅岡未緒は公演ではフロリナ姫ですが、この物語の本当のオーロラ姫は浅岡未緒で、デシーレ王子は加賀恭一郎ではないかと思いました。