この本のことについては、私は、様々な本のレビューで、この本を読まなくては太平洋戦争とか、帝国海軍とか、特攻とかは理解できないというコメントを加えてきた。
<br /> 最初に読んだのは、中学校の時で、プラモデル少年であった小生は、「戦艦大和」に単純にあこがれていた。ところが、伊藤正徳氏の「連合艦隊の最期」を読んだところで、そう簡単な話ではないと思い、図書館でこの本を読んだ。何度も何度も読んだ。そして、自分の父親とほとんど同じ世代の日本人たちが、様々な思いを旨に、「戦争」と向き合っていたことを知った。
<br /> 戦争は漫画や映画のようにカッコいいものではなく、悲惨で、苦痛で、残酷であることを示している。
<br /> 他方、吉田氏は、この体験を出来るだけ正確に再現するにとどめ、「反戦」とか「戦争は誤りである」とまでは言っていない。現場にいた人間の見たこと聞いたことを述べるにとどまっている。
<br /> この本の評価については、様々な意見があるが、私は、まずは事実の記録として第一次資料として考えるべきだと思う。この本のほかにもさまざまな戦争体験を語った本がありそれらをも総合して、しかる後に、「戦争」をどうとらえるか考えるべきだと思う。
「敗れて目ざめる、それ以外にどうして日本がすくわれるか ・・・日本の新生にさきがけて散る、まさに本望じゃないか」
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<br />NHKの「そのとき歴史が動いた」で大和を取り上げた回の放送の最後で朗読されたこの一文、私も深い感銘を受けた人間の一人です。しかし、大和の搭乗員だった八杉康夫さんが書かれた「戦艦大和 最後の乗組員の遺言」という本を読んでその見方が変わりました。八杉さんはこの放送にも出演されたのですが、本の中で吉田満「戦艦大和の最期」に対していくつかの疑問を投げかけています。
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<br />無論、そのことをもってこの本の評価がどうなるということはありません。ただ、アメリカとの戦争に敗れた戦後の日本に生まれ戦後の価値観の中で育ち、吉田満氏のこの「名文」に無邪気に感銘を受けていた現代日本人の自分と、国家の存亡をかけてあの戦争を戦っていた当時の日本人との圧倒的な気位の違いに今更ながら気付かされ、ただただ自分の不明を恥じるのみです。
既に良いレビューも出ているが、私もこの本を読んで感じたことは、これは一流の文学作品ではあるが、これを事実と混同してはならない、ということである。やはり近年この書だけを大和の「唯一の事実」であると主張するものが後を絶たないがゆえに述べたかった。
<br /> 作品としては、刻一刻と迫る沈没を描くスリルが独自の文体で語られており感動としか言いようがない。やはりこれは著者が一級の作家であるということを示していよう。