関東平野を空から見下ろすとひたすら広い。そこに凹凸があるとは思えない。
<br />しかし、実際に東京の街を歩くと坂が多いのに驚く。その昔、東京は極めて
<br />複雑なフィヨルドだった。北から上野半島、湯島・お茶の水の半島、そして
<br />南は芝、増上寺の半島、そこから海を挟んで慶応の三田半島が遠くに見える
<br />構図。これは本当に想像力をかき立てる。あるいは四谷怪談の舞台が高台で、
<br />鶴屋南北は谷底から妄想をかき立てていた(らしい)。寺社・墓場は何百年の所在を
<br />変えることが無いが、東京の寺社をたどるとこれが半島の先、岬にきれいに並んでいる。
<br />本当に面白く、この地図を持って散歩に出かけたくなる。学問的根拠や史実による実証など
<br />どうでも良いのである。実証などできるわけがないのだから。
<br />最後はどうしてもそこに行き着く「皇居」。皇居といえばバルトだが、中沢新一のおとぎ話
<br />の方があるいは、ずっと面白いかもしれない。
地形から読み解く東京論、は決して目新しくない。
<br />さらにいえば、著者が主張している「かつて岬であった場所が、現在までずっと聖地であり続けている」という論は、なるほどなぁと思いつつも、証明のしようもない。
<br />だから本書は、著者の思考の海に「ダイブ」して、その世界観を楽しむべき一冊なのだろう。
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<br />その限りにおいて、本書は非常に優れた、そして興奮を呼ぶエンターテインメントだ。
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<br />新宿の起源伝説、東京タワー内の怪しさ・・・多くの謎が著者流の解釈にまとめられていく様はなかなか圧巻。
<br />実際に、東京という街をすみずみまで見直してみたくなる。
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<br />東京について詳しくない人にとっては、魅力はかなり減。
まず、この書を科学的検証に裏打ちされたものと期待しないほうがよい。
<br />洪積台地と沖積低地の織り成すフィヨルド状の東京から文化的というかスピリチュアルな空想を羽ばたかせた詩的読み物として楽しんだほうがよいだろう。
<br />自分の居住地を決める際の参考にもなりそうだ。