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| パックス・ブリタニカーー大英帝国最盛期の群像 (上)
(
J. モリス
椋田 直子
)
実は私はこの本は英語でしか読んでいません。それなのにレビューを書くのはルール違反かもしれません。著者は英国では有名な旅行作家で、数多くの作品がありますが、その特殊イギリス的なテーマの選択や背景のせいでしょうか、あまり邦訳はされていないようです。その中には、香港、英国建築に与えたインドの影響、トリエステなど興味深い作品が満載です。今でも時々financial timesに彼(彼女?)のtravel essayがよく掲載されています。もともとこの作品は、3部作で、かなりの時間(出版の時期を見ると10年以上)をかけて、世界中の英国帝国主義ゆかりの場所(その中には有名な場所から、ほとんど聞いたこともない場所まで含まれます)を実際に訪問して書かれた作品です。確かにイギリス人なりの公平感を持って、英国帝国主義の影の側面も取り上げられています。しかし基調はkiplingのwhite men's burdenといっても過言ではないでしょう。究極的には失敗するよう運命付けられた使命にもかかわらず、それを天命(heaven's command)として受け止め、その使命を遂行した多数の有名無名のイギリス人の”悲しさ”が淡々と描かれます。著者の英語は必ずしもわかりやすいものではありませんが、独特の魅力を持っており、イギリス人はこの描写の中に、私たちには理解することのできないノスタルジーと満足感を感じるのでしょうか。そして私たち日本人は、この面の皮の厚さと、反省なるものとは無縁の普遍的な自信に驚かされるだけです。日本人にはこのような筆致で自分たちの”ささやかな”植民地の歴史を振り返ることはできないのです。
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