細木数子の暴露物と聞くと、安っぽい印象を受けるのだが、とんでもない。戦後社会の歩みと共に育った拝金モンスターを重厚な筆致で描いた見事なドキュメンタリーである。数々の脅しや圧力もあったようで、暴力団関係の取材では定評のある溝口氏しか、この偉業は達成できなかっただろう。占いや墓で数々の庶民を不幸に陥れている彼女に比べたら、一部投資家をひっかけたホリエモンなど無罪に等しい。今日なおテレビでは傲岸不遜で性悪な彼女の姿を電波で流し続けているとは、何とも恐ろしいことだ。えっ、ここまで書いていいの?と痛快を通り越して、やや「引きたく」なるほどの筆致の鋭さは必読。最後に彼女の脅しで芸名を変えた芸能人(おさる他)がすべておちぶれ、改名を断固拒否した次長課長だけが元気なのはおかしくもあり、哀れでもある...。
この本を読めば彼女のあの高圧的なキャラクターが、どのようにして形成されたのかが理解できる。人間不信や拝金主義が渦巻く環境のなかで、弱い立場の女性である彼女がどう生き抜き、現在の立場を築きあげたのか・・・、それはTVドラマ『黒革の手帳』のような、いやそれ以上にドラマティックな人生の連なり。また身の危険を感じながらも、筆を貫いた著者と取材チームのジャーナリスト魂に感服。
今やテレビ等で顔を見ない日がないと言っても良いほどの細木氏ですが、恐らくこの本が出なければ多くの人々が素顔を知らないまま細木氏を褒め称えて、細木教の信者になっていたでしょう。
<br />
<br />硬派のジャーナリストとしても著名な溝口敦氏がなぜテレビによく出る「占い師のおばさん」を題材にしたのか最初は疑問を感じていました。本書で溝口氏自身も最初は取材対象にもしなかったそうです。しかしながらその実像はとても他人事や見過ごす事ができないものばかりです。
<br />
<br />とかく日本人は強い口調でモノを言い、歯に衣着せぬ言動を好む傾向が多いようですが、氏が出演している番組が高視聴率を叩き出している背景にはこれがあるのではないでしょうか。
<br />
<br />決してスキャンダル等の興味本位で描かれているものではなく、細木氏自身の様々な「功罪」がこの本には凝縮されています。
<br />