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マインド・クエスト 意識のミステリー ( D. ロイド 谷 徹 )

 第一部を小説「現象学のスリル」として、第二部が論文「本物の蛍−意識の科学についての考察」となっており、両者は同じテーマを二つの手法で描いて、興味深い仕上がりでした。 <br /> 小説部では哲学を学ぶ研究生が、担当教官の部屋で教授が倒れているのを発見する。この教授が生きているのか死んでいるのかもわからないまま時間が過ぎて、やがて教授の不在が、思わぬ事件を引きつけて、彼女は不思議な体験をする。野心に満ちた脳神経科の研究生や、怪しいロシアのスパイまでが登場して、コンピューターの仮想空間を利用して世界を支配する方法までが飛び出してくる。しっかりとした情景描写で、目前の現実を小説手法によって描き出しながら、常にそのどこまでが現実か確証が遠のいていく世界は不気味でもある。そうした小説世界を破綻なく描き、「物語でないもの、詩でないもの、つまりフィクションでないものなど、この世界には存在しないのです」と言い切ることで、「実在」の危うさを引きずり出してみせるのです。 <br /> 小説だけを読むと、これは単なるバーチャル世界を描いた物語であって、現実はその奥に静粛に存在しているかのようでありますが、そうではないのです。第二部の論文では、この小説の内容を拠り所にしながら、「現実」とは何かを追いつめる。それは、現在多くの認知学で言われる「探知」だけでは解明できないことを証していく。探知(センサー)をいかに多く増やして「空想と本物の所得性のディティルという点で一致する場合でも、それでもなお、最後まで残る超越という非感覚的特性は、違いとして現れ続ける」この超越した存在を認識させてくれるのが時間だと言うのです。 <br /> 読んでいるうちにハイデッガーの現象学のコアに触れて、さらに未解決と思われるテーマを、僕らにもわかりやすく示してみせてくれる、刺激的で面白い本でした。

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