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自伝大木金太郎 伝説のパッチギ王 ( 大木 金太郎 太刀川 正樹 )

 本書の中で興味深い箇所が全く無いわけではない。密航前の韓国での生活、逮捕、拘留されてからの「闘い」等。しかし、本書は総じて、「昭和のプロレスもの」を「唸らせる」ものとはなっていない。韓国の新聞に連載された「自伝」をまとめたという「装い」が、本書を「昭和プロレス」から、乖離させてしまったのだろう。 <br /> <br /> 80年代に完全断裂してしまった「韓国プロレス界」と紆余曲折ありながらも今だ「力道山の遺産」が残る「日本プロレス界」では、同じ「プロレス」でも似て非なるものである。決定的な違いは「観る側の差」であろう。日本のプロレスファンはプロレスを「リング内」だけの「話」にはけっしてしないのだ。 <br /> <br /> 「昭和のプロレスもの」にとって「大木金太郎」が韓国では「キム・イル」である、なんていう名前の「違い」なんて、どうでもいいのだ。 <br /> <br /> 大事なことは「大木金太郎」が、日本プロレス界において、既に「伝説」であったことだ。 <br />その「伝説」とは、表層において、「馬場・猪木」のそれには格段に及ばないが、「その実」はけっして軽んじられるべきものではない、「日本プロレスの歴史」だった。 <br /> <br /> 力道山は自分の後は「馬場・猪木・大木」の時代にする予定だった。が、力道山亡き後のプロレスは「馬場・猪木の時代」だった。なぜ、「大木」がそこで抜け落ちたのか……。抜け落ちはしたが、「大木金太郎」は消えなかった。「力道山一番弟子を自負する大木」からすれば、「消えるわけ」にいかなかったろう。「消えはしなかった」が「抜け落ちた」という「現実」を受け入れることが「大木金太郎のプロレス」だったのだ。 <br /> <br />「力道山一番弟子」を「自負」する「大木」が「日本プロレス界」から「抜け落ちなければ」ならなかった「日本のプロレスの真実」こそ「大木金太郎伝説そのもの」だったとも言えるのではないか。それは「弟弟子の馬場・猪木時代」の陰の中、大木にとって「壮絶な闘い」だった筈である。 <br /> <br /> 本書は残念ながら、そんな「大木金太郎伝説」には全く触れらていない。あくまで「韓国のパッチギ王伝説」が主体なのだ。必要以上の「美化」もなければ「誇張」もない本書は、「自伝」としては違和感もなく幅広い人に受け入れられるかもしれない。 <br /> <br /> が、しかしである。「大木金太郎伝説」を期待した「昭和のプロレスもの」にとっては、少々寂しいものとなっている。著者がもういないという事実が尚更「寂しさ」に拍車をかける。著者の笑顔とともに「伝説は天に昇った」のだ。 <br />  <br /> ならば「昭和のプロレスもの」にとっては、「大木金太郎の秘めた思い」に「想いをよせつつ」、故人を偲ぶしかないようである。 <br /> <br />「元インター・ナショナルチャンピオン」大木金太郎よ永遠なれ、である。

この本は韓国のスポーツ新聞の連載をまとめて日韓同時発売という形で出版したもの。 <br />日本で言うなら日経新聞「私の履歴書」(笑)。 <br /> <br />自分は日本プロレスの時代を知らないので、 大木金太郎といえば新日本プロレスでの <br />猪木とのシングルや国際プロレスでのAWAタイトル挑戦といった試合がイメージに <br />残っている位だが、著者にとっては「日本プロレス/力道山」が全てだったらしく <br />このあたりについては詳しくは触れられていない。 <br /> <br />この本は「韓国人である金一」が日本に密航、朝鮮人であった力道山に直訴して <br />弟子入りして から一人前のプロレスラーになるまでと、力道山について(人となりから <br />死亡原因の推測まで)の 部分を中心として書かれている。著者の力道山への傾倒ぶりが <br />文面からよく伝わってくる。 <br /> <br />更に「日韓の架け橋になったスター」という観点では、アメリカで修行している時に <br />日本人と韓国人が 一緒になって応援してくれたという体験が書かれていて心暖まる <br />思いがした。「愛国心」とやらを強制されるのではなく、自然にそう言う気持ちが表に出て、 <br />他の国の人とも交わる事が出来るというのが本来の姿ではないのか、と感じさせられた。 <br />

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