本書の始まり、第1章・第1節のタイトルは「昔話には魂がこめられている」。なんでそんなことがいえるのか、と冒頭から疑問を感じたけれども、著者はユング派の立場から、人間の心の普遍性<普遍的無意識・元型>につながるものが、多くの人に受け入れられ、時代を超えて存在し続けるのだ、というふうに説明する。<p> ここで読み解かれるのは、『ヘンデルとグレーテル』や『いばら姫』、『黄金の鳥』などグリム童話数篇。グレートマザーや、アニマ、トリックスターといった元型の概念を用いた読み解きのほか、物語に出てくる数字の意味なども説明されている。<p> 読み終わる頃には、例えば村上春樹の作品なんかも、バラバラになるまで解釈してみたくなってくるのだけれど、それを見越してか、著者は昔話の読み解きを始める前に、フォン・フランツの言葉を引用している。「いかなる昔話の解釈もその昔話以上に出ることはできないのである」。
わかりやすく書いてあるので簡単に読めてしまうが、内容は深く、恐ろしい。ユング心理学でグリム童話を読み解いているがそれが単なる分析ではなく人間の本質を抉り出すものだからだ。童話はもちろん人間がつくったものであり、ユング心理学に基づいてつくっているわけではない。それが一つの学説でこうも見事に解読できるのだ。人間の本質はずっと変わっていないのだと思わされる。
昔話とはこのような意味がこめられていたとは知らなかった。<br>心理学の基礎というのはこの本で十分ではないのでしょうか。<br>ユング、フロイトの考察を学ぶとともに、個人的心理学的考察、個人的問題解決法が得られると思います。まさに。昔話による人生の処方箋ですね。