地下鉄サリン事件が起こったとき、僕は社会人の駆け出しで、五反田に通ってた。通勤経路がこの事件の起きた地下鉄とかぶってなかったので、直接被害をこうむった記憶がない。なんだかこの事件事態の記憶があいまいで、電車がとまってたのか、会社休みにしたのかさえ覚えていない。
<br />そんな記憶のむこうにある事件が、この本を読むと痛みというか、恐怖というか、何もしていないのに、こんな不条理に巻き込まれる市井の人の人生への複雑な同情とかが生まれる。
<br />やはり、泣くなってしまった人、本が出た当時寝たきりになってしまっている人の周辺の方の話しは涙無しには読めなかった。
<br />それは、安っぽい同情とかではないと思いたいのだが、果たしてどんな言葉で表したらいい自分の感情だったのか、説明がつかない。
<br />分厚くて手ごわそうに見える。実際に手ごわい。ただ、一人のインタビューはそうそう長くないので、区切りながら、区切りながら、ゆっくり読んだらいいと思う。
<br />作者の真摯なインタビュー、構成、作文の温度が非常によく練られていると感じる。インタビューされている人が主役で、その人が表にキャラクターとして立っていて、作者は後ろにうまい具合に隠れている。素晴らしいバランス感覚だと思う。
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3日くらいで一気に読みました。
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<br />それぞれ私達となんら変わらない人たちの、私達となんら変わらない日常、、そう、あの事件に遭遇してしまった以外は、、、。
<br />被害者の方々の日常生活、普段考えていること、将来の展望など、ひとりひとりの人生は私達とあまりに近い。それだけに、それが突然断ち切られる事の恐怖や絶望が、リアルに深く胸に突き刺さる。
<br />最後の方のインタビューなどとても涙無しには読めないが、それを「感動のフィクション」にしないためにもこの分量は必要なものだと思う。
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<br />逆サイド、オウム側にいた人達インタビューした『約束された場所で』とセットで読みましょう。
あるいは一気に読み勧めるのはつらいかもしれない。62人。ひとりひとりのインタビューで、人々は同じような話(真実の話)を語る。どうしても似通ったものになる。しかし、それでも(他の本を読みながらだけれど)三日で読んだ。
<br /> インタビューでは生の被害者の言葉が語られる。たぶん、こういうことが僕らがやらなければいけないことがある。物事には具体的なものと抽象的なものがある。たとえば、福田和也は広島の原爆で被害にあった人が言わなければならないのは『世界平和』や『核開発反対』ではなく、『被害にあった悲しみや痛み』である、という。つまり、そういうことだ。
<br /> そして考えなければいけない。インタビューを読んで、そして、村上春樹の意見を聞いて、あの事件はなんだったんだと、すべての人間が考えなければいけない。ビルに飛行機が突っ込んだ→大変だ、人質が解放された→よかったね。これは思考じゃないですから。