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渡邊恒雄 メディアと権力 ( 魚住 昭 )

昔は「ツネさん」とか「ワタツネ」とも呼ばれてようだが、今は誰もが「ナベツネ」。なんだか「ジャイアン」みたいな響きがある。そんな彼は日本一の発行部数を誇る『大』新聞社の社長にして主筆であるが、彼を言論人と呼ぶ人は少ない。それは何故か、ということが本書には書いてある。というか、約400頁の本文には殆どそれしか書かれていない。 <br /> <br />権力を握るにためには何でもやる、とにかく徹底的にやる。ジャーナリズムって一体何?という感じである。権力闘争はどこの会社でもあるが、それが政治とメディアという二つの権力を行き来してしまうのは、あきれるのを通り越して、凄いとしか言えない。と同時にこれがこの作品に対する不満にもなる。 <br /> <br />タイトルが「渡邉恒雄 メディアと権力」である。だから、権力の追及者としての渡邊恒雄の描写に偏るのもやむを得ないのかもしれないが、人間性そのものを炙り出そうとする『評伝』としては物足りなく感じてしまう。 <br /> <br />例えば、彼はワシントン勤務のときには家族も連れて行っているのだが、帰国して日本の学校に復学した息子の学力が、日米の公立学校の学力格差のため遅れていると知ると、勉強を教えるために教科書を3冊(息子に1冊、息子に教えるときに彼が使うために1冊、彼の予習のためにベッド脇に1冊)、参考書も同様に揃えて臨んだ、というエピソードが紹介されている。勉強をやれ、と言うだけではないのである。ただの負けず嫌いなだけかもしれないし、並外れた愛情なのかもしれないのだが、著者はそれを掘り下げることなくエピソードの紹介にとどめている。 <br /> <br />こういった権力の追及者ではない時の渡邊の人間性が現れているようなエピソードは他にもあったのだが、いずれも同じように扱われている。力作であるだけに個人的にはそこが非常に残念である。 <br />

渡邊恒雄は、結局、青春の理想を裏切り、権力への意思を別の形で実現したのだろう。そうではない生き方をしたジャーナリストもいる。世代はずっと若返るが、フジサンケイグループの中で、青春の志を保持しぬいて抵抗した記者の本がある。松沢弘「フジサンケイ帝国の内乱」(社会評論社)が、それだ。あのフジサンケイグループで、論説委員が「残酷物語」に抗して新労組を立ち上げ、懲戒解雇されても12年間も闘い続けている。渡邊の権力への意思とは、全く異なる「解放への志」がここにはある。

 多くの人に読まれて欲しい労作であるという前提に立って、私なりの疑問点を述べる。<br> もし渡邉恒雄が読売社長になれなかったとして、では誰ならよかったのか? 本書の登場人物から選べと言われたら、判断に困るのではないか? 著者は大坂読売社会部長だった黒田清をナベツネ的なものと対置しているように思えるが、黒田を戴く巨大メディアというのも想像しにくい。そもそも著者は、渡邉批判の都合から読売社会部を美化し過ぎていないか?<br> 著者は本田靖春の「務台は販売の神様、渡邉は政界の人間で、ジャーナリストではない。だから読売でジャーナリストであろうとすると必ず上とぶつかる」という言葉を引用する(p289)。しかし私の考えでは、ジャーナリズムの「良心」とか「本道」を振りかざした批判は、不徹底なものだ。近代ジャーナリズムの歴史を振り返れば、むしろ務台・渡邉的なものこそジャーナリズムの本性であることが分かる。明治期の政論新聞は渡邉的な人間たちの巣窟だった。<br> 私はシステムの優位を言い立てて個を免罪しようというつもりはない。しかし問題はやはり、読売が巨大だという、その事実にある。渡邉的な人間そのものは、どこにもいる。<br> ただし、文庫版巻末に収められた著者と玉木正之の対談で、巨人の凋落やJリーグ人気に「渡邉的なもの」の機能不全を指摘していたのは興味深かった。私はそこに、旧来型メディアの行きづまりを見る。もっとも、ネット社会もパラダイスではないわけだが…<br> 最後にもう1点。解説で佐野眞一が渡邉を「東大でカントに傾倒し、ニーチェを熟読したエリート中のエリート」と形容している(p481)が、東京高校から東大文学部に進学するのはエリートコースとは言えまい。魚住の記述も文学部進学の経緯を掘り下げていないが、私はそこにも渡邉のコンプレックスの源があるのだろうと推測する。

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