いまや世界の村上春樹だが、
<br />まだ全ての作品を読了したわけではない。
<br />読了したのは、『風の歌を聴け』に続いて、
<br />まだ、2作品目の初心者だ。
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<br />『風の歌を聴け』に比べると、
<br />エンタテイメント的な要素が格段に増えたこと、
<br />舞台が変わっていき、飽きさせないことなど、
<br />初心者にも読みやすい作品だ、
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<br />登場人物は、読者が「受け入れやすい」形で描かれていると思う。
<br />感情移入、というのとはまた違った感じなのだけれど、
<br />認識しやすい風に、登場人物が描かれている。
<br />奇妙なくらいに身体的特徴が明確であったり、
<br />名前がストレートであったり。
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<br />文庫だと、前後編であるのが、また良かった。
<br />前編を読了した後、
<br />後編が読みたくてしょうがない、という気持ちになった。
<br />そんな気持ちを得られることは、幸せだと思う。
途中まではいつもの感じなんだけど、違うのはやっぱり少しミステリ風味を帯びた羊をめぐる謎と明確なストーリーだと思う。
<br /> 風の歌もピンボールも良かったけど、こういう話の中で村上春樹の文章を楽しむのもいい。
30才になった「僕」は、四年の結婚生活にピリオドをうつも仕事は順調にこなしていた。新しい恋人は完璧な耳を持った不思議な女の子。耳を解放したらって話はよくわかなかったが、妻がいなくなった僕の隙間を埋めていた。
<br />単調な生活から、街を出て放浪する鼠から送られてきた羊の写真がきっかけとなって冒険というのか旅に出る。
<br />背中に星形の印がある羊は人の中に入り込んで支配する。羊としての世界観を実現させることで、付随的に宿主だった人間は社会を支配するも幻想に悩まされるという。羊を探しに人里離れた山小屋にまで来た僕は、暗闇の中で羊に取り込まれることを拒否した鼠と再会した。
<br />前作にも増して非現実的な世界が展開するけれど、相変わらずリアリズムに徹する日常生活の描写のおかげか単なる幻想小説にはとどまらない魅力がある。
<br />「羊」は何なのだろう。野心? そんな単純なものではない。世界そのものかもしれない。いや、羊は羊のままでいいのだろう。頭で考えるだけでなく、心にまで羊が入り込んでくるような作品だった。