あざとくもありながら一気に読ませきる浅田氏の筆力は、「蒼穹の昴」で如何なく発揮されたが、しかし氏は調べた事は全部出さねば気がすまない性質なのでしょう。ちょっと本書はクールダウンした様な。
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<br />閑話休題。
<br />西太后以外にも醇親王、恭親王、李鴻章、袁世凱、珍妃はじめ結構皆、写真が残っていますよ。読後に月餅妃の写真を眺めるのもリアル感があって余韻に浸れます。
「蒼穹の昴」からちょっと後、紫禁城の奥で起きた事件を解明すべく諸外国の高官が動き出す。イギリス貴族にして海軍提督のソールズベリー伯爵が混乱の北京に着任する二年前、皇帝の妃が井戸に投げ込まれ死んだ。これを立憲君主制という体制を脅かすとみた日独露英それぞれの貴族たちが、自らの国の体制を守るために協力して犯人を探し出すというストーリー。
<br />皇帝は幽閉中で西太后が政権を握る中、疲弊し列強に食い尽くされていく清朝を同時に描き出している。
<br />アメリカ人記者をはじめ、今は乞食同様の皇帝の元宦官、袁世凱、殺された妃の姉と彼女に使える宦官などに話を聞いてまわる四人は、しだいに植民地化されゆく中国という国の問題に直面するようになる。誰が皇妃を殺したか、ではなく、なにゆえに皇妃が死んだのか、が問題の焦点になっていく。そして最後に幽閉中の皇帝自身から語られるのは、果たして真実なのだろうか。
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<br />前作のようなドロドロした感じがないかわりに、植民地でのパワーゲームが繰り広げられていくかんじがうまく出ている作品ではないだろうか。史実では西太后が殺したとされる珍妃だが、それを最初のアメリカ人記者の意見で疑かせることに成功している。話の運びはうまいと思った。
<br />だけど、主人公であるはずの四人に貴族らしさが出ていなかった。日本とロシアはまあしょうがないにしても、ソールズベリーといえば名門のはずなんですけどね。それをただの学者や軍人にしてしまうと、当初の目的だったはずの立憲君主制がどーのっていう設定が生きてこないし。難しいところです。
「蒼穹の昴」のような大歴史絵巻というものとは全く異なり、井戸に突き落とされた光緒帝の側室、珍妃をあやめた犯人を捜すというストーリー。
<br />「蒼穹の昴」を映画の本編とすれば、本作品は、「メイキングビデオ」的というのは安直すぎるかもしれないが、前作で登場したアメリカ人新聞記者のトーマス・バートンや、蘭琴、袁世凱等が、一人称で珍妃の悲劇について語りかける。物語の中心にあるのは、光緒帝と珍妃の純粋な愛と、それをとりまく側室のどろどろとした愛憎。前作を読んでいないと面白さはわからないが、時代は前作から先へ進んで義和団事件後ということになっており、後半にアクションもしっかり盛り込まれており、前作とは異なった面白さが味わえる。
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