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イスラーム帝国のジハード ( 小杉 泰 )

 イスラム、というのは日本人にとって最も理解の難しい宗教・事象のひとつではないでしょうか? <br /> 一般に、厳格な戒律を持ち、女性の地位が軽視され、お酒も飲めない(?)のに、なぜ世界中で多くの人々が深く帰依しているのか? <br /> また、なぜイスラムは宗教が国家の上位に位置するような、西側から見れば「時代錯誤」とも思えるような体制を取りうるのか? <br /> <br /> これらの疑問に明確な答えが見いだせないと、安直に「イスラムはファナティックな宗教で、理解不能」というレッテルを貼ってしまいたくなります。 <br /> <br /> で、本書ですが。 <br /> イスラムの草創から世界規模(あくまで、「帝国」と称せられる規模、ということですが)の版土を得るまでが詳細に記され、中でも「ジハード」が現在意味する「聖戦」というだけではなく、「自己の内面との戦い」までも含む幅広い意味の言葉であることを繰り返し述べています。また、分かりにくいスンニ派とシーア派の軋轢についてもその起源を解説しています。 <br /> そして、現在の「イスラムは怖い」的な雰囲気を作り出しているのはあくまでも少数の急進派・過激派であって、多くのイスラムは過去の帝国が多民族・多宗教国家であったのと同様に、他者と共存可能な穏健派であることも、説いています。 <br /> <br /> ただそれでも、なぜ現代においてイスラムだけがこれほど深く政治に容喙し、人々のこころを動かすことができるのか、たとえそれが「一部」の者であるにしても・・・という疑問は氷解しません。 <br /> おそらく、多年にわたり無名有名多くの人が作り上げたイスラムの歴史は、1冊の本では理解することは難しいのでしょう。筆者の独断でもいいから、現在のイスラムにもっと深く切れ込んだ考察を入れて欲しかった、あと、他の巻に譲るのでというのはあってもオスマントルコについてもう少し触れて欲しかったという気はしますが。 <br /> イスラムを理解するための、基本的事項を学ぶための本、と考えれば、よくまとまっていると言えるのではないでしょうか。

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