何といっても帯が秀逸だ。
<br />「福井晴敏氏推薦!『龍馬に学べ?いや、シャアでしょ』」
<br />ファーストガンダムの世代にとって、確かに、赤い彗星こと
<br />シャア・アズナブルは、もはや実在したかのごとき
<br />“歴史上の人物”である。
<br />
<br />本書では、こうした視点から、宇宙世紀シリーズのガンダム、
<br />0083 STARDUST MEMORY、Zガンダム、ガンダムZZ、逆襲のシャア
<br />などの作品に描かれる「シャア・アズナブル」の生涯を研究した
<br />書となっている。シャア・アズナブルがファーストガンダムの
<br />一年戦争の中で、どのように成長し、彼を取り巻く登場人物から
<br />どんな影響を受けて、自分自身の役割を変えていったのか、
<br />まさに“リアル”に感じることができる点で、優れた“伝記”で
<br />あると感じた。
<br />
<br />ちなみに上巻では、Zガンダムの舞台であるグリプス戦記の前半まで。
<br />下巻では、その後の「逆襲のシャア」までの彼の軌跡を追っている。
<br />ちなみに本書のエッセンスは上巻まで。上巻にハマった人なら、
<br />絶対下巻も読みたくなりますが、考察的には冗長に感じる部分も多い。
<br />と思うこと自体が、よほどハマった結果かも。
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<br />なお、ガンダムそのものを見たことがない人や、ファースト以外の
<br />ファンの人が読んでも面白みはないし、これを読んだから、映像
<br />作品の方が見たくなるという性質のものではないと思います。
<br />
シャアという人物の長所、短所、その複雑な人となりを読みやすい文章で解説し
<br />まさしく史実の人物の伝記を読んでいるような読み応えを感じました。
<br />またシャア本人だけではなく彼に関わった敵味方が赤い彗星をどのように見ていて
<br />逆に彼は周囲をどのように見ていたかまで詳細に記されていて
<br />映像作品を再鑑賞する際に、これまでと違った印象を受けるかもしれません。
<br />
<br />例えば、この上巻はファースト〜Z序盤までのシャアの行動を検証していますが、
<br />「弟を謀殺した男をキシリアは何故、厚遇したのか。そのキシリアまでシャアは何故、殺したのか」
<br />さも大儀があるような口ぶりでいながらアムロに勝てずに最後は「ザビ家への復讐」という
<br />個人的感情にそのはけ口を求め恩を仇で返した小心者…と、後世に叩かれかねないこの行動。
<br />そこに至るまでのシャアとキシリア双方の思惑や当時の事情は実に奥深い。
私のような「ファースト・ガンダム」世代にとっては、シャア・アズナブルは今や義経や龍馬、信長といった「歴史上の英雄と同格」といっても過言ではない(「シャーロキアン」にとってのホームズと同じである)。彼のスタイル(「赤」といえば「エース」!!)や台詞から発せられる哲学とその生き様に10代の頃どれほど影響された事か。そんな私たちの永遠の英雄、「赤い彗星」ことシャア、いや、キャスバル・レム・ダイクンの生涯をつぶさに「研究」した本書は、まさに「座右の書」である。
<br />「歴史解説書」のように淡々とシャア・アズナブルなる人物を解析する文体は、あたかも実在の人物の研究書である。また、こと「ファースト」に限れば、あくまで「劇場版」を「定説」としながらもTVシリーズやその他の「外伝」をも「異説」という形で盛り込む事で、架空の人物の歴史に「立体的な厚み」(ガンダム・ファンが好む「ウソのリアル」?)を与えている(これは同時に「口うるさい」熱狂的なファンへの「防衛線」にもなっている)。
<br />個人的には、シャアが己を「優れたオールド・タイプであってもニュータイプとしては『2流』」と認識するにいたる過程とその根拠についての論評が興味深い(私たちにとってはシャアこそが「真のニュータイプ」だったのだが)。そして、その認識こそが、「1年戦争」以後の彼の一見不可思議な行動に一貫性のある説得力を与える事になるとしている(と結論つけて「上巻」は終わる)。
<br />この20数年間で刊行された数多の「解説本」の中でも、出色の作品であることに異を唱える人はいないと思われる。
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<br />ただし、(当然ながら)ガンダムに興味の無い人や、主にSEEDのファンであまりファーストは熱心に観ていないという諸氏には、全く価値のない本であることも認めざるを得ないのだが・・・。
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<br />折しもTVシリーズのDVDボックスが発売されており、同書を読むと無性に観たくなってしまうのは、サンライズの罠にまんまとハマってしまったというべきか?