宮本武蔵の生涯を描く漫画と知り、購入を始めて早5年。毎巻欠かさず購入しています。
<br />文章が多すぎず、しかし少な過ぎず。多くは語らない、絵をみて感じ取ることが必要な漫画です。
<br />また、武蔵にかかわる登場人物の名言は、現在生きている僕の教訓ともなっている。これほど考え、勉強になる漫画がどこにあるかのか…。すばらしい漫画だと思います。
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又八編はいつもつらいです。
<br />かつて同じスタートラインに立っていた友人に、どんどん取り残されていく辛さ。読者として客観的に見れば、才能も努力も雲泥の差だし、そもそもスタートラインすら違っていたかもしれないと分かるのですが、多分又八本人は気が付いていない。自分の無能にも怠惰にも気付かず、ただ華やかなイメージのみ追いかけている男。最近のニートな若者になぞらえたのか、昔からある出世争いの悲喜劇を取り入れたのか、いずれにしろ自分にも身に沁みるところがありすぎて辛いです。
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<br />今回の又八も醜さ全開。ここまで醜く描かなくても、と思うくらいの役割が振られています。武蔵の方は引き続き単純な勝ち負けから戦う意味を求める世界へ、出会う人、出会う事件毎に少しずつ進んでいます。その精神性の高まりに対して又八の夢の下世話なこと…。つらい。
<br />ベタですが秀才型の武蔵、天才型の小次郎、凡人の又八と、ここに来てそれぞれのキャラクターが一層立って来た気がします。彼らを今後どう動かし、どんなドラマを語って行くのか、作者の考えが楽しみです。
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連載誌ではなく、コミックで纏めて読みました。通常、セリフの少ないマンガは流し読みされるものですが、絵の持つ強さと、ストーリーの重厚さで、じっくりと味わえるのが嬉しい。連載スパンで読んでいたら、更にその傾向が強く味わえるのでしょうね。なにより吉川英治(連載昭和10年〜14年、単行本発刊昭和11年〜14年)の原作に負けていないところがすばらしい。バブル時期に破綻した「只単に最強を目指す」という少年漫画の本来の進むべきベクトルである、剣を交える意味、闘いとは何か、天下無双の意味に対する若き日の新免武蔵守藤原玄信の苦悩が色濃くなっている(23巻現在)原作が60年を経過した現在でも十二分に読めるものであるからには、漫画としても読めるのは当然であるのだが、その昇華の手法に脱帽です。
<br />大人の漫画です。