シリーズ全体を通して言える事だが、この作品の人物描写には目を瞠るものがある。
<br />この人はこういう性格と決めて説明調に語るのではなく、登場人物の主観で、またはその人の言動・挙動で少しずつ人となりが見えてくるのだ。そこに居るのはアイコン的キャラクターではなく、簡単に言葉では表現できない複雑で繊細な少女たちの心である。
<br /> 作中人物の心情に沿って進む物語に、読者も一緒に喜んだり悩んだりできるのではないだろうか。そして思春期の痛みと輝きがここにはある。色眼鏡がかけられがちな作品だが、本質と醍醐味はここにあると私は見ている。
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このシリーズが人間として一番大切な人との繋がりや絆の話なのだと理解できた巻でした。
<br />それまでは色々な偏見が横行していて、自分も気付かずにそう思いながら読んでいましたが、
<br />主人公以外の視点で書かれたこの巻で、皆が相手を思い動いていることに好感を抱きました。
<br />自分自身が楽しめなかった青春を謳歌している主人公たちをこれからも応援したいと思える一冊でした。
<br />人それぞれ色々な捉え方がある作品だとは思いますが、他人の意見に耳を傾ける前に、
<br />まっさらな気持ちで読んでみるのもいいのではないでしょうか。。。
帯のコピーは「瞳子の秘密が明かされる?」。そう、この巻では、以前に優が思わせぶりにほのめかしていた瞳子の秘密が、不完全ながら本人の口から明かされる。そして、発売当初は駄作という印象を受けた『子羊たちの休暇』が、実は未回収の大きな伏線だったことが明らかになる。さらに、いままで「さん」づけで呼んでいた乃梨子を瞳子が呼び捨てにしているのも大きな進展だ。
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<br />しかし瞳子は、物語の終盤で大きな絶望の淵に立たされる。そして、今野先生をして「わー、わー、やってしまった!」と言わしめた一筋の光明が見えたところで、物語は幕を閉じる。つまるところ祐巳×瞳子問題の解決までのステップ数は増えたことになるのだが、そこに到るまでのプロセス、つまり、今まで意図的に周囲との人間関係を切ってきた瞳子がひとつひとつ人間関係を修復していく過程が俄然楽しみになってきた。祥子と祐巳の偶然の出会いに代表されるように、「人間関係の構築」こそが『マリア様がみてる』の根底に流れるテーマだからだ。瞳子の周りの志ある人たちは、誰も瞳子を見捨ててはいない。
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<br />作中のスケジュール的にはこのあと、バレンタインデーのイベント、そして3年生の卒業にまつわるもろもろの行事が待っている。それまでの短い(が、何冊もかけて入念に描かれるであろう)期間にどれだけの進展があるのか、楽しみにさせる1冊である。