筆者が専門にしている「社会学」という学問の、参与観察という調査方法によって、「バイク便ライダー」を、雇用される側から見た世界が描かれています。
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<br />筆者は、「やりたいこと」を仕事にし、それに没入していくことを「自己実現系ワーカホリック」と名付け、ワーカホリックが不安定就業と結びついたときが問題だとしています。
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<br />教育に対して、職業への「夢」と同時に「リスク」も考え合わせられるような知識をもった若者を育てること、団塊ジュニアに対して、同世代内での競争ではなく連帯を進めることを求めています。強い個人をつくる教育とセーフティーネットの充実が必要であると主張しています。
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<br />バイク便に携わる若者の実態を描くのに、会話を多用していますし、常体敬体を使い分け、主張部分と、主張を繋ぐ説明の部分とを区別していますから、途中で息抜きをしながら、サッと読み終えることができました。
作者が社会学の研究者(東大院生)であり、論文を書くための参与観察から生まれた作品。学会向けの論文ではなく、一般市場向けの新書で出版することを前提にしている。
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<br /> そのため、最後の考察の部分で小難しい話をほとんど省いてしまっている。確かに読みやすいのだが、「搾取される若者」すなわちワーカホリックな歩合ライダー、あるいは「ワーキングプア」を生んでいる社会のあり方に対して、もっと鋭い問題提起があってもよかったのではないか。「13歳のハローワーク」に対する批判意見だけでは物足りない。
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<br /> 前半〜中盤部分、バイク便ライダーの実態については、おもしろい読み物でした。バイク便業界のさまざまな不文律は、作者のように実際に大学を休学して、1年間参与観察を続けたからこそ解明されたものだろう。もっとも、レクサ○や○MWに乗ってる学会のセンセイ方に、こうした若者たちの思考回路を理解させるに足りる記述が足りない。
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<br /> 論文のネタとしては価値のある研究なのだから、一般市場向けの新書にも、たとえ難解であっても骨のある考察を盛り込んでおくべきだと思った。
実際に労働に参加してみて研究するという「参与観察」が労働社会学のなかではやっている。でもそのほとんどは、つまらない。理論的裏づけが弱いし(要するに勉強していない)し、なによりも、「読ませる」ような文章を書けないからだ。この分野の先駆鎌田彗ほどとわいわないが、文章能力の低さは観察力の低さをあらわしている。
<br />それに対して本書は「読ませる」とおもう。ライトな筆致だが決して内容が「軽い」わけじゃない。相互間競争の規制と連帯という、非正規雇用者すべてにあてはまる権利実現のオルタナティブにむけて、バイク便という特殊な業務のなかの統治の様式が実にうまく描かれている。惜しむらくは経営構造まで余裕があれば説明してほしかったということ。「職場」に問題を集約し、自発的統合の契機をやや強調しすぎているかなあということ、あとバイク便にくるひとのライフヒストリーにも言及してもらえればよかった。いずれにしろ、30分で読めるいいルポ。