1997年に朝日新聞社から出た単行本の文庫化。
<br /> 著者が19-29歳の時に書いた文章を集めたもの。インド、アフリカ、タイ、ビルマ、中国、コロンビアと世界各地を旅している。ただ、早稲田の探検部の出身ということもあり、バックパッカーの旅行記とはちょっと違うものがある。単なる旅行というよりも、探検・冒険として行われているものが多いのだ。UMAのムベンベを追いかけたり、中国で野人を探したり、コロンビアの危険地帯に潜入したり。とはいえ、現地の人々との温かい触れあいなどもあって、冒険と放浪の境目に位置する旅人かな、と思う。
ご存知、青春物の大傑作「ワセダ三畳青春記」の著者による冒険記です。要は、野々村荘なる三畳一間の下宿にて、通常人とは異なる非日常的な日常生活を送っていた間、本業ともいうべき、海外冒険において、著者がどんなことをしていたかが綴られた本になります。実際、読んでみても、中国やアフリカに野人、怪獣を追っかけにいったり、南米に麻薬を試しにいったり、インドで無一文で放っぽり出されたり等々、しかも、間一髪で命が助かったことも数知れず、やはり破天荒なものでした。しかし、著者の生来の明るさのせいか、こういうことも平然と受け入れて、また次なる冒険に旅立って行く所が、その昔に忘れかけていた元気を取り戻してくれる不思議な本です。青春物、とりわけ「ワセダ~」のファンにはお奨めの1冊です。
序盤、インドで身ぐるみはがされるシーンが印象的だ。ここで高野秀行という人の性質がちらりと見えるような気がする。<br>パスポートなど所持品全てを奪われたあとの「一文無しというのはスカーンと晴れた青空のようなもので…」というシーンなのだが、ここで青空を比喩に持ってきたのがスゴイ。<br>なにしろ場所はインド、ひとりぼっちで所持金ゼロ、もう少しで拉致されて殺されていたかもしれないのだ。普通の作家ならここで「一文無しとはまるで目の前に霧がたちこめたような状態だ…」とか「大きな壁に取り囲まれたような心境だった…」とか、なにかネガティブなものを持ち出して心情を表現するはず。<br>なのに、高野秀行はここでスカーンと晴れた青空をもってきた。<p>この人は決してここで無理して気丈に振舞っていたわけじゃなく、思考の根っこの部分があっけらかんとしているんだと思う。<br>ふつうの人間は、テロ多発地帯や伝染病のはびこるジャングルの存在を知ると、その危険さを考えて尻ごみする。自分に起こりうる最悪のケースを想像して恐怖する。面白い文章を書ける知的な人間ほど危険性を冷静に分析できるぶん、その傾向は強くなると思う。<p>でも高野秀行は違う。この人は知的でありながら、またこれから行く場所の危険さをよく知りながら「まあ多分どうにかなるだろう」と世界中どこでも行ってしまう。<br>いわゆる平和ボケともちょっと違う。戦場みたいなところで命をおびやかされるような経験を繰り返してきても、次もどうにかなるだろうと自然に考えることができる、強烈におめでたい…じゃなくて楽天的かつ前向きな思考回路の持ち主が高野秀行だ。<br>そんなところが、僕みたいに内向的で臆病な人間からしてみればとっても羨ましいのだ。