上下巻、一気に読了。
<br />ダニエルとフリアンの人生が錯綜する。
<br />フリアンの人生を知った後、
<br />同じように進んでいく時間が、
<br />決して素敵な結末ではないことを予感させ、
<br />読んでいて苦しくなりました。
<br />しかし、その人生から目をそらすことはできません。
<br />
<br />少年の成長、父と子の愛情とともに描かれる
<br />文学、本の存在意義。
<br />
<br />自分自身の読書体験を深く考えました。
<br />
<br />この本をガイドに、バルセロナを歩いてみたいです。
上巻では、主人公ダニエルの恋やフリアンの過去、フリアンの本を燃やす「悪魔」ライン・クーベルトとの対峙などが、まだベールに包まれたあやふやな形で描かれていましたが、下巻に入ると、ダニエルと元ホームレスの友人フェルミンの探偵活動が活発になっていきます。
<br />フリアンの恋が始まったと同時に、緩やかに悲劇が始まっていたことがわかっていきますが、親友ミケルがそれに対して心を砕いたことも感じられます。フリアンとミケルの友情、ミケルのやさしさが行間にあふれ、思わず涙してしまいました。
<br />読み進める間、ずっと、「フリアンは生きているの?」「これからダニエルはどうなるの?」という気持ちが胸を占め、本を手放せませんでした。
<br />上巻、下巻を通して、登場人物の息吹、感情が満ちているのもこの物語の魅力です。中でもフェルミンの存在は大きい。ダニエルと物語を、そして読者を回転のいい頭と口で導いていってくれます。
今、読了しました。書店にあふれる書物から、この一冊を選び取った瞬間に、そこは「忘れられた本の墓場」となり、あなたはダニエルになります。
<br />生き生きとした登場人物と、巧緻なプロット。物語や書物、万年筆などの文具を愛してやまない人にこそ、この本を読んでいただきたいと思います。
<br />また、満ちあふれる警句や、あたかも詩歌のような美しい修辞にも心を奪われます。
<br />そしてなにより、この物語の核は、父と息子の物語であると思います。大切なものが父から息子に継承されることの美しさが、何よりも心を打ちます。
<br />本を読む喜びに浸ることができる、文字通りの傑作です。