戦争ものって、大体人情もの・感動秘話物なイメージがありますが、これはきちんと
<br />戦略的視点も持っているし、兵卒の現実を感じさせられるマンガでした。
<br />そういう視点での作品にありがちな、残虐的過ぎるということもないように思います。
<br />ちなみに、このマンガを読んでいると、いかに戦術的能力、度胸などがあっても
<br />人としての恐怖はやっぱりあるし、しがらみはあるし、実行していても悲しい現実は起こる
<br />ということを再確認します。
<br />手元においておきたい一冊ですが、ジャンル的に好みのあるところだろうし、☆4つに
<br />しました〜。
神代の昔、人と龍の間に結ばれた<大協約>が世界秩序の根幹をなす<大協約>世界。
<br /> 皇紀568年、新興の島国<皇国>の北端の島<北領>に超大国<帝国>の軍が上陸する。宣戦布告なしの侵攻であった。
<br /> 北領鎮台司令の森原大将は天狼原野にて東方辺領姫ユーリア率いる侵攻部隊を迎え撃つが、予想を上回る練度の帝国軍を前に、数に勝りながらも皇国軍は壊走。森原もいち早く逃げ出してしまう。
<br /> 完膚なき負け戦に皇国軍は虎の子の親王の軍と実験部隊である剣牙虎兵も実戦に投入せざるを得なくなる。剣牙虎兵である主人公新城直衛らに任されたのは、味方が脱出するまでの時間稼ぎであった。
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<br /> さて、祖国が危機に陥り、新兵器を手に主人公たちが戦うという筋書きはヤマトやガンダムなどで見られる戦争物としては定着した感のある筋書きだが、本作は一味違う。剣牙虎兵の扱いは期待の新兵器というわけではないし、戦いは自軍に勝利を導くためのものではなく、損害を最小限に抑えるための防衛戦だ。また、新兵器の性能が戦術・戦略レベルで勝敗を決定付ける要素全てになっていない。
<br /> そう。本作ではまず徹底して安易なご都合主義を否定する。
<br /> 期待されていた森原大将は逃げ出し、愛国心を持った西田は捨て駒にされる。使命感の強い若菜や鎮台副官は部隊を危機に陥れてしまう。
<br /> この物語の戦場はけしてヒーローを爽快に活躍させる舞台ではないのだ。絶望的で一筋縄ではいかない死と紙一重で分かたれる空間でいかに使命を果たし、生き延びるかが焦点となる。
<br /> 主人公・新城がいい。登場人物中最も平凡な顔立ちの彼だが、士官という立場から自分を殺し、時に恐怖に震え、時に自分の偽善に腹を立てる。ヒーローでもなく、弱さや醜さ、狂気を持った一人の人間がいかに困難を乗り越えていくか。平和な現代の日本にとってはとことん異質な世界で有能な彼だが、多くの人が共感できると思う。
戦場は厳格なリアリズムに充ちている。人間がその生命を賭けて争う場だからだ。ルールはある。しかし、時としてそのルールさえも破られることがある。そこがスポーツや一般社会とは大きく異なるところだ。
<br />戦場にはロマンがあるという。1人では生存リスクが低まるゆえに、必然的に仲間との協調が必要になるからだ。戦場のロマンはリアリズムに裏打ちされている。現実的な必然性が、やがて友情やロマンに転化していくのだ。
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<br />この物語は究極のリアリストともいえる新城直衛中尉を主人公として描かれる。上下関係が明確な軍隊という組織において中間管理職的な地位にいる将校である。彼は常に自分が生き残る方法を模索する。時には上下関係に阻害され、彼が信じる最良の手段を選択しえないこともある。リアリストである彼は、それも現実として受け入れた上で、次の方策に思索を巡らす。
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<br />ベクトルがぶれずに思索を巡らすことをやめない。いつの時代においても欠かせざる才能である。彼なら絶望的な状況下でも、あきらめることなく血路を最後まで模索するだろう。北領の状況を鑑みるに、彼の才能は今後ますます発揮されるに違いない。
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<br />クチコミで知った作品だが、教えてくれた人には大感謝している。文句なしの星5つである。