打てる手は全て打った。
<br />混乱した状況下において限られた要素を有効に活用した結果である。
<br />要素は単に使うだけでは十分とはいえない。
<br />知謀と策謀、そして土壇場の勇気。
<br />これらが上手にミックスされて初めて状況を克服できる。
<br />
<br />ここまで無勢ながら多勢をしのいできた新城直衛。
<br />天然の要害と化した冬の川を前に小苗橋で防御を固め、最後の一勝負を挑む。
<br />ここを一定期間守り通せば任務を完了し、あわよくば自身も脱出できるかもしれない。
<br />光帯の下で戦いながら、一向に光明が見えなかった男の前に一筋の光が見えてきた。
<br />しかし、そこは戦場である。
<br />こちらが知謀なら向こうも知謀。
<br />いやむしろ、手持ちのカードが多い相手だけに選択肢の幅は広い。
<br />まったく、この状況下で彼のポジションに就きたくないものだと、つくづく実感した。
快調に進んできたテンポが、この巻では帝国側人物の背景描写にもページをとられて、ちょっとダウン気味。
<br />丁寧に描くのもいいけど、写真1枚とか、回想シーン1コマだけで、委細は読者の想像に任せてもいいのでは。
<br />駒城家の状況なんかは、それでやってきたのに。
<br />撤退戦だけで、何巻使うつもりだか、先行きちょっと不安。
<br />雑誌の看板になると長期連載狙いになって、くずれていった作品も多い。
<br />敵軍のことを全部あからさまに、過去まで描かれてしまうと、読者が神の視点に立ってしまい、新城への感情移入に妨げにもなる。
<br />話の展開自体と戦闘の設定、人間ドラマなどは、期待通りの水準できてます。
このマンガは、原作ありきのマンガ化としては稀有なほど、オリジナリティに満ちている。
<br />そしてそれが、作品を面白く膨らませている。
<br />主人公の新城直衛の人間性は、臆病でいて理知的で、冷酷でいて小心で、鷹揚でいて疑心に満ち、また確固たるものがあるようで混沌としている。
<br />と、まさに中身が知れない人物であるのも、見事に描かれている。
<br />読んでいて、実に楽しい。
<br />戦記ものは苦手だという人でも、龍やテレパシーなどのファンタジー要素が盛り込まれているし、人間ドラマとしての深みもばっちりあるので、是非、読んでほしいと思います。