以前、世界級の山に登っている男の子と話したことがあります。
<br />日本の最高学府に通う彼はとってもロジカルに物事を判断する人でした。
<br />彼曰く、「山に登っていると、死を感じることがあるか?ありますよ。高い山にいったら、帰れないで亡くなった人がたくさん残っているんですから」。
<br />このことばがにわかに実感できなかったのですが、岳の二巻を読んでいて、彼のことばが蘇りました。
<br />やはり、山というのは死を感じざるを得ない場所なんですね。
<br />そこで生きていくためには、常に正しい判断をしなければならない。
<br />そういう、「山で生きていくための厳しさ」がさらりと描かれている二巻でした。
<br />読み終わった後、以前、会った、山登りの男の子のことが少しだけ理解できたような気分になりました。
<br />曖昧に生きてはいけない世界・・・それが山・・・それがよーく描かれている。
<br />
人の死を正面からとらえて、逃げることなく扱っているところが素晴らしいと思います。
<br />そこには身近な人を失った悲しさ、救うことの出来なかった悔しさと自らの弱さが描かれているのですが、遭難者に対する主人公の尊敬と慈しみの思いがそれを乗り越えることの大切さを強く感じさせてくれます。
<br />
<br />人生を山に喩えることがありますが、そういった観点からも得るものがあり、死があるからこそ生が美しく、死を考えることで生きることの大切なのだということを考えることができるでしょう。
<br />
<br />生命の大切さが問われている現代において、貴重で大切な素晴らしい作品です。
このマンガをどうしてこんなに好きなんだろう。
<br />山岳マンガだからか、ストイックな主人公のマンガが好きだからか。
<br />答えはみつかった。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」が好きだから。
<br />三歩の人物造形の基本は「雨ニモマケズ」だった。
<br />「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」「…南にシニソウナヒトアレバ…」
<br />
<br />三歩は、山の伝道者でもある。といっても、一度に大勢に語るわけではない。
<br />本を書くわけでも、写真展を開くわけでもない。不特定多数は相手にしていない。
<br />山の、同じ所に立った隣の人にだけ、「また山においでよ。」
<br />直前にどんなにつらい体験を共有していても、いつも同じような言葉。
<br />
<br />作者の想いは、三歩を通してこちらにダイレクトに届く。
<br />山好きに限らず自然と人を愛する人全てに普遍性をもつ心に響く作品だ。