『本当に感じたいのは、もっと近くの人のぬくもりなのに。』
<br />イアンが求めたものは、多くの人が当たり前のようにもっているシンプルなもの。
<br />でも彼がそれを手にするための道のりは『not simple』でした…。
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<br />イアンの言葉に、イアンの涙に、そしてイアンの笑顔に私も涙してしまいました。
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<br />自分で読んで見て感じる以外に上手に説明することができないお話です。
<br />是非手にとって読んで下さい。
これは本当に不幸な話なんだろうか。
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<br />確かに主人公イアンは常に自分が望むのとは
<br />全く逆のベクトルで人生を歩んでいく。
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<br />そもそもの生い立ち自体が、自分が歩むであろう道を
<br />予見させるものであるとも思う。
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<br />けれどイアンはいつでも幸せを求めていた。
<br />どんな逆境の中でも幸せを手に入れるための目標を持って
<br />生き続けていた。
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<br />おそらく僕らは身近にある当たり前のことに慣れ過ぎていて
<br />大切な事を見失い始めている。
<br />この本はそんな僕らに警鐘を鳴らす。
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<br />最初にも書いたけれどこれは不幸なだけの話ではない。
<br />読後わずかに残るぬくもりが微かな希望を感じさせる。
不幸な人生を歩んだ男が不運に巻き込まれる、というよりも主人公と周囲の人間にとって不幸と不運は同一のものとして現れている。
<br />どんな人にとっても家族の虐待も出会い頭の交通事故も同じであり、逆に言えば幸せな家庭と宝くじの当選も同じだと。
<br />救いの無い人生を描くとき、読者に徹底的に絶望を強いる作品もあるが、どこかに逃げ場を用意して救済の余地を与える。
<br />漫画の場合はその画が救いとなる場合があり、西原理恵子の作品も、彼女の奥行きの無い画や子供の落書きのような登場人物の笑顔が一つの救いとして機能しているし、本作品も陰影のないスタイリッシュな画が主人公の人生の陰惨さから読者を遠ざけている。
<br />逆に主人公の人生を描こうとする小説家の視線と読者の視点のズレが、本作品に陰影を与え、不幸と不運を立体的なものにしている。
<br />よく練られた、傑作。