数多くの論戦を戦ってきたドーキンス。本巻でもそこかしこにその戦跡を見ることができます。
<br /> 例えば、社会的・人間的関係を破壊する人種差別を憎む余り「人種的差異に遺伝的意味はない」と断ずる生物学者ルォンティンを、却って真実に至る道を塞ぐとして批判(バッタの物語)。また、カンブリア紀「爆発」から主張される断続平衡説(故グールド他)を、自然選択の漸進的・累進的性格をないがしろにする点で聖書に生物学的意義を見出す創造論に似るとして退けています(カギムシの物語)。
<br /> 特に、ルォンティン批判に続けて、著者は文化的な性淘汰が遺伝学的には瑣末だが皮膚の色など外見的特徴に大きな差異をもたらしたのでは、と推察しています。このようなところに論争を超えた次元に活路を見出していく著者の積極的姿勢が感じられます。議論の封殺ではなく真実を以って人種差別の誤りを正そうとするのがドーキンスのやり方であり、また私もそれ以外に方法はないと思います。
<br /> 本書の生物学的知識およびドーキンス先生の啓蒙的姿勢について、とりわけ若い世代、大学生だけではなく中高生にも広く読まれることを願います。
ドーキンスはいうまでもなく、ヒトが単なる自然界の一構成員でしかないと言うことを前提にして、しかし、われわれにとって興味深い性質が、過去のどの点で分岐した生物群と関係が深いのかを語りながら、生命の起源への旅をする。
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<br />ちょっと恥ずかしい話ではあるが、私はこれまでの分子生物学的な知識から、漠然とカバとイルカはイヌ・ネコぐらいの大きさの共通祖先を持つのかと思っていたが、この本に明らかなようにおそらくそれは哺乳類の原型といっていいような形のトガリズミだったはずだ。
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<br />専門の生物学者でなければ、だれにでも分類学上の、あるいは日進月歩である分子生物学上の最新の知見を常にキャッチアップできるわけではない。この本はドーキンスの美しく理解しやすい文章で、生物学の中でも、われわれ一般人が興味を引くような進化の歴史を概説してくれる。ぜひとも科学の常識として読まれるべきである。