江戸の人々の暮らしを現代に伝える杉浦日向子さんの江戸案内です。
<br />「ごくらく江戸暮らし」と名付けられた第一部の終わりで著者は言っています。
<br />過去から現代そして未来へと暮らしは変化していくが、人々の心は同じである。
<br />江戸の寺子屋の教育の基本は、ただひとつ「禮(れい)」である。
<br />そして、何でもある現代にかけているのは、豊かさを示すと書く、この禮かもしれないと。
<br />重いメッセージです。
<br />未来の我々の子孫の目には、今の時代が豊かで平和な世界に映るのでしょうか。
<br />答えが出るのは百年、二百年先だとしても、現代に生きる我々は何とかしてこの問いかけに
<br />答えていかなければならないのです。
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<br />講義録を収録した第二部は、話し言葉でテンポよく、まるで日向子さんの息遣いが聞こえてきそうです。
江戸の町人の風俗を思うとき、そこにある種の理想郷があるような気がしてくる。環境問題だとか、リサイクルシステムだとか、食の安全だとか、老後の生活だとかを議論するときに、諸外国のあり方もそうだけど、まず、日本の文化がある意味一番花開いたであろう、江戸の生活様式を振り返って見るべきだと、思うのです。女性が思いのほか強くて、恋愛に関してもごくドライでしゃきっとしていて、とても気持ちがいいです。
<br />内容的には、同出版社の「一日江戸人」と同じく、江戸の町人、主に長屋の住人であるところの、大多数の生活を紹介するものです。
<br />「一日江戸人」が、読者に対して、これでもか、これでもか、と、我々現代に住む日本人の思いこみ的江戸イメージを拭い去るというか、本当の江戸風俗はこうだったんだよ、と、力一杯、啓発的に書かれている一方、
<br />本書は著者の気負いのようなものはもはやなく、手取り足取り、親が子に噛んで含めるように、ていねいに親切に、江戸の生活をのびのびと描き出している点で、とても素敵だと思う。
<br />長屋住まいの江戸っ子は、いずれ火事で燃えてしまうから家具や調度品には執着せず、「消え物」にお金をかけたそうです。物欲的な豊かさよりもこころの福を大切にしたそうです。
<br />「こころ」の豊かさを探してみてください。
宜しくお願い致します。