戦争体験はないが、戦争追体験のある私は、とかくこうした類いの資料から得られるリアリティに対しては、少々懐疑心を抱いていた。戦争は悲惨、と皆異口同音にいうが、一体全体、何が悲惨で、どこまでが感情論で、どこまでが憐憫なのか、まったくわからないのである。これこそが、時代の経過という“緩慢な悪魔の計画”なのであるが、ふと手にした本書は、確かに戦時下、それも往きて戻らぬ玉砕覚悟の精神状態の中で、父の安否を気遣う家族に宛てた言わば“日めくり遺書”でありながら、どこか達観したユーモアを感じる。家族を安心させるためのやせ我慢ともどこか違う、もうこの世の者でなくなってしまったかのような、ふうわりとした抒情を偲ばせさえするのだ。
<br /> 戦争は悲惨だ。こんなステレオティピカルな言葉を、ここで挙げることは愚問だ。しかし、本書には、戦争体験をユーモラスに語ってくれた祖父の飄々とした面影が重なって、素直に対峙してしまう。家族愛は、戦火においても最大の勇気なら、今、この平和時にもさらなる勇気になると信じたい。(了)
映画「硫黄島からの手紙」に唯一、原作本としてクレジットされたのが本書。
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<br /> 映画のパンフレットで<「玉砕指揮官」の絵手紙>について、イーストウッドや脚本を担当したアイリス・ヤマシタが語っている部分を紹介しよう。「多くの日本語文献を翻訳していく中で<「玉砕指揮官」の絵手紙>と出会った。……クリントは彼の手紙からインスピレーションを得た。この心優しい、愛すべき父親が硫黄島の日本軍を指揮したなんて、とても信じられなかった」。
<br /> 実際、渡辺謙が演ずる栗林中将がアメリカ留学時代を回想するシーンや、硫黄島での様子をかくところなど<「玉砕指揮官」の絵手紙>そのもののシーンが出てくる。アメリカの自動車文化の凄さを子供に伝える手紙を書いた栗林中将は、どんな思いで巨大な米軍と戦ったのだろうか…イーストウッドが想像しただろうことを、私たちもこの本を読んでいくと、同じように体験できるのだ。
<br /> 映画とともにぜひ読んでおきたい…絵手紙なので時間もそれほどかからず、ユーモラスな文体に時に笑みも出るはずだ。ただ…売れているのか、なかなか書店で見つからない。
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硫黄島で玉砕した中将が、アメリカ留学時代に自分の子供に送った絵手紙と、硫黄島から家族に宛てた手紙をまとめた本です。字がまだ読めない自分の息子に、息子がアメリカにいたらこんなことを感じるだろうということを絵で描いています。子供への愛情が感じられますし、とてもやさしくユーモラスな絵を描いています。超エリートで、こんなやさしい絵を描く人が…と思います。この人と玉砕総指揮官というのが、どこでどうむすびつくのかが不思議に思えます。これが、戦争のこわさなのでしょう。何だか切なくなってしまう本です。戦争を行っていた人が血に飢えた人たちでないのに、怖いものです。一度読んで見るといいと思います。当時の中将という人がどんな人かを物語っている絵だと思います。