ラジオという媒体を使って、宣伝活動することは、映画と同様かそれ以上にかつては効果があった。GHQによる放送については、断片的な資料を読んだことがあるが、ここまで質量とも膨大な内容を正確に引用した書物は始めてである。
<br /> まずは一時的な資料を正確に把握することが、歴史認識の出発点であるという立場からすれば、ややくどい引用も、資料として貴重と思うべきだと考える。
<br /> 櫻井氏が、引用の一部をカットしたり、省略すれば、その部分について異論が出るかもしれない。
<br /> そういう意味でも、徹底的に引用し、それに最小限の解説を付したというのは公正、公平な作品であるといえよう。
GHQによる占領政策の一環として、1946年に放送されたラジオ番組『真相箱』の台本をまとめた『真相箱』と言う本の復刻が本書の大部分で、著者による解説はわずかである。特に、海上・陸上・航空作戦についての解説はほとんどなされていない。したがって、戦後、米国が行ったプロパガンダの実際を知ることが本書の第一義と思う。
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<br />日本人の質問に日本人が答える形で書かれている『真相箱』は、非常にうまく出来ていると思う。日本人を一方的に貶すようなことはせずに少しばかりおだてて、米国内の原爆に対する反対世論にも触れたりしながら、連合国側の正当性をさりげなく主張しているのである。生きることに精一杯で大本営発表の情報にしか接してこなかった当時の日本人が『真相箱』を鵜呑みにしてしまってもやむを得ない、と本書を読み終えて思った次第である。
これはユダヤの格言だが、GHQによる言論/思想統制はまさしくこの類であり、極めて狡猾であることが分かった。読み始めた時のイメージとは違い、随所に日本軍の功績をたたえるコメントがちりばめてあったりとGHQはうまく「日本メディア」の仮面をかぶって日本人を洗脳した。これをうまく受け入れてしまったのは日本人の「人の良さ」と「敗戦のショック」のためか。
<br />真相箱の各章?を全文引用しているためかもしれないが、引用部分が多少くどい感がある。そのため、途中からは原文をすっとばし桜井氏のコメントのみを拝読。もう少し整理できたかな、ということで星4つ。
<br />戦略的なプレゼンテーションとプロパガンダは日本人が不得手とする分野だが、そういった点についての自戒と内省のきっかけともなる本だった。