まあ、説明はいらないでしょう。
<br />『村上春樹氏は希有の天才作家』でしょうね。間違いなく。
<br />カフカもフォークナーもヴォネガットもチャンドラーもそこそこ読んでいますが、その『村上春樹氏は希有の天才作家』という評価は変わりません。
<br />実は模倣、というのは現代(古典もか?)も含めて、重要なテクニックの一つであります。というか文化全体が、『ある影響を受けて製作されたものの影響を受けて作成されたものたちが一つの集合体を成す』というものですから、それの有無を問いかけることはナンセンスです。だってあらゆる作品は模倣で出来ていますから。(そういう視点で見るならば世界の小説家のほぼ全員はヴァージニア・ウルフの墓の前で土下座をしなければならない)
<br />例えば今ここで、村上春樹の文章を真似てみなさい、と言われてだれが真似できるでしょうか? 真似る、ということと『模写』は違うわけです。
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<br />そういう意味でこの作品の評価を下げる、というのは少々問題でしょう。
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<br />この小説では幻想的(ファンタジー的)なパート、現実的(ハードボイルド的)なパートの二つが絡み合ってできています。ですがその二つは遠く離れているようでありながら実は限りなく近いところにあるわけです。ハードボイルド・ワンダーランドの最後のパートは、明らかに私たちの日常の果てにある、ある事象をモチーフとしているようです。その二つは、どうにも私たちの生と死を暗示しているように思えてなりません。両方が脳の作り出した幻影であるとしても、私たちはその幻影の中で、精一杯生きているのです。
世界の終わりとハードボイルドワンダーランド。なんとも長ったらしいタイトルですが、村上春樹ファンにも彼の著作をまったく知らない人にもお勧めできる名作です。春樹さんらしい不思議な話で、一読しただけではすべてを把握することは困難だと思いますが、何度読んでも飽きないつくりになっています。この小説だけでも十分に楽しめますが、読後に村上春樹イエローページなどを読まれれば、この作品の持つ底知れなさに驚嘆させられること間違いなしと思います。彼は、多少の議論はありますが、現代日本文学の最高峰に位置づけられている大作家なのでもし興味をもたれた方はぜひ読むことをお勧めします。他に「ねじまき鳥クロニクル」や、「海辺のカフカ」という世界的に有名な小説もありますので、熱烈にお勧めします。もうノーベル賞受賞は決まったようなものなので、同じ日本人としてリアルタイムで彼の作品に触れることができて、本当に幸せに感じます。
<br />カフカ、チャンドラー、ヴォネガットを熟知する人がこの作品を読めば皆
<br />「よくもまあ、棲む世界の全く異なる3人を一冊の本に閉じ込め、ものの
<br />見事に彼等の世界を拝借しちゃって・・・」と驚き、呆れ返ります。
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<br />そして一方、上記の3人の作家をあまり知らない人がこの作品を読めば皆
<br />「ひょっとして、村上春樹氏は希有の天才作家なのでは・・・」と、つい
<br />思ってしまうのかもしれません。
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<br />それはともかく・・・
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<br />村上氏が描く世界を私は好きにはなれませんが、上述の件を差し引いても
<br />氏の作品は、圧倒的な哀しみに胸を潰され、無力感に取り憑かれた人々に
<br />“新たな「日常の捉え方」”そして“新たな「先への希望の抱き方」”を
<br />明瞭に指し示しておられると思います。
<br />
<br />その意味に於いても、今後は、出来うれば「カタカナの入った題名」でで
<br />は無く、また、俗に言われる所の「ネットウヨ」ならび「オタク」の潮流
<br />におもねる事無く、より明確に、より簡潔に、我々日本人に必要な「新し
<br />いアイデンティティーの確立」に寄与していかれる事を切に望みます。