杉浦日向子は江戸を愛したひとであった。なんで江戸に生まれなかったか、と彼女のために悔やみたくなるレベルで江戸的な人物であった。
<br />芸術系漫画雑誌のガロで漫画を描いていたのが最初のキャリアだと思うが、そして彼女の本業はあくまで漫画家であったと思っているが、NHKの番組「コメディーお江戸でござる」だかで毎回江戸についての講釈をしたりと漫画以外での活動は幅広く、この著もそのような活動の一端、内容としては江戸シロウト向けの江戸ガイド本といったところであり、江戸の風俗文章とイラストを交えて面白おかしく紹介したものである。
<br />これが異常なまでにリアルな語り口調で語られ、彼女の書いたもの全部に言えるのだが現代にいながらにして、常時リアルタイムでの江戸の情報が流入してくることとなる。あれスピード感をすら伴う読書体験は他のどの江戸ガイド本から得る知識体験とも異なるものであり、トリップ感はサイケデリックですらあり、上質なネタを提供する杉浦日向子という人物の持つ独特な空気感覚が明らかに創作家としての一面を通して色濃く滲み出たひとつの芸術作品的意味としての真空保存パック的のそれである。
<br />いくらベタ褒めしても足らないくらい杉浦日向子は漫画も文章もどれ読んでも面白い。急逝が惜しまれる。
著者は、江戸にねっから惚れ込んで、そのたのしさ、面白さ、そして身近さを、どうで現代の私たちに伝えたいと念じていました。それも学問とか、ウンチクとかの垣根はとっぱらって、ふつうに、現代感覚的に、「ほらほらっ、こんなにいいんだよ!」という感じで。
<br /> この本では、そんな著者のアイデアと工夫が、イラスト(ほんらい漫画家なので、お手のもの)と簡易な文章のに、よく結実していると思います。
<br /> 他にも、著者のコラム本は何冊か読みましたが、時代の流行、風俗、料理、女性のプロポーションまで、誰でも興味ある題材がちょっとずつ幕の内弁当のように揃っている点でも、これが一番うまい本だと思いました。江戸雑学に興味あるひとのみならず、誰にでも気軽に楽しめる良書だと思います。
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<br /> 最近は、日本の歴史、伝統などとおくめんもなく口にする人が多いようですが、現代日本人から見て一番近い「ムカシの日本」である江戸のことすら、私たちは知っているようで全然知らないのだということがわかります。そういう意味でも、誰が読んでも、楽しさのなかに認識あらたな箇所がきっとあるはずです。
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<br /> それにしても、コラム本が文庫になってずいぶん最近出てるようですが、著者の真髄はやはりマンガにありです。文庫でもマンガふたたび充実して欲しいなあ。
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半村良に『およね平吉時穴道行』という中篇の傑作がある。
<br />ひょんなことで現代へタイムスリップした江戸娘を主人公に描く
<br />所謂、時代物SFだ。
<br />女優として身を隠しつつ、現代に生きんとするおよねの悲哀が印
<br />象深い作品となっている。
<br />著者はもしかしておよねのように江戸時代からタイムスリップし
<br />てきたのではないか?そう真剣に思えてくる。
<br />こういうものはとかく研究書風か薀蓄ものになりがちだが、本書
<br />は著者が漫画家だったためかビジュアル満載で楽しい。
<br />不思議に本当にご自身が先ほどまで暮らしていた風俗を紹介して
<br />いるようだ。