ハンニバルに攻め込まれ、こてんぱんにやられつつも、しぶとく反撃したり様子を見たりで何とか持ちこたえ、攻勢に転じようとしていたローマ。
<br />本書は、ケルト人にすっかりやられてからも起き上がったローマ(『ローマ人の物語』文庫第2巻)を思い起こさせる、ローマ反撃劇を語る。
<br />天才ハンニバルが孤軍奮闘する中、10代のころから対ハンニバル戦に参戦していたスキピオ。
<br />このスキピオが名将に成長し、若いのに特例の特例で軍団を率いて勝利を収めた後から物語は始まる。
<br />カルタゴの象をうまくよけるように隊形を組むなど、スキピオの戦術が光り、圧勝していく様子が見所である。
<br />また、スキピオが圧勝してはい終わり、とはいかなかったその後のポエニ戦役のもようも語られてゆく。
<br />ギリシアやマケドニア、ヌミディアなど周辺諸国の思惑も絡み合い、マケドニアとカルタゴの滅亡へと歴史は進んでゆく。
<br />ローマがマケドニアを根絶したことは、未だに賛否両論であるが、陥落するカルタゴにローマの遠い未来をみる武将の姿がよかった。
とても読み応えがあった。ハンニバルとスキピオ・アフリカヌスという、指折りの名将同士の対決や2人の人となりも知る事ができ、少しも退屈する事はなかった。しかし、僕がこの本を読んで一番印象に残った場面は、カルタゴ滅亡のシーンでのローマ軍の司令官スキピオ・エミリアヌスが滅び行くカルタゴを目にしながら友人で歴史家のポリビウスに言った次の言葉である。<br> 「ポリビウス、今われわれは、栄華を誇った帝国の滅亡という、偉大なる瞬間に立ち合っている。だが、この今、わたしの胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかはわがローマも、これと同じときをむかえるであろうという哀感なのだ」<br>この言葉には僕は涙が止まらなかった。当時のローマは高度成長期であり、誰もローマの滅亡など想像すらしていなかった時代に、彼はやがてくるであろう祖国の最期を予感していたのだろうと思う。事実、彼のこの言葉から約1500年後、古代ローマは完全に滅亡した。
著者は、カルタゴが滅ぼされたのは、不幸な状況によるものだという。マケドニアだのギリシャ人だのが絡まった末だという。そうかもしれない。<p>ただ私には、ハンニバルが半島の内部に攻め込み、ラテン同盟の崩壊を策した時点で、カルタゴの運命は定まったのだと思われて仕方がない。そこまで安全保障上の急所を突かれたのだから、忘れろ!と言われても無理だ。ローマの心胆を冷やしたのだから。<p>名将が国を滅ぼしたのではないか?<p>もしそうなら、日本がアメリカに滅ぼされなかったのは、ハワイ程度しか叩けなかったお陰かもしれない。真珠湾の施設を完全に破壊していたら、もう少し懲罰色の強い占領であったかもしれない。<br>ワシントンを空襲したり、ニューヨーク港やノーフォーク軍港を封鎖していたとしたら、今頃日本は滅ぼされていたかもしれない・・・かな。<p>そんなことを考えてしまう本書は、やはり面白い。