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| ローマ人の物語〈25〉賢帝の世紀〈中〉
(
塩野 七生
)
このシリーズは、著者の歴史家のように事実だけを淡々として書くだけでなく、時折、豊富な文献を基に客観的に分析し、時に主観を述べるといった平易に書かれた歴史小説であることがローマ人を面白くさせている要因だと思うが、この巻のローマ人は、五賢帝の三人目に数えられるハドリアヌス帝の治世(若年期から壮年期)までを物語っており、他の皇帝と同様に、皇帝としての功績だけでなく人間性も描かれていて面白い。
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<br />壮年期までのハドリアヌス帝の治世に関して言えば、帝国全域の巡行が、単なる旅行気分での視察ではなく、帝国の現状を分析し、安全保障の再構築が目的だったことに皇帝の果たすべき使命感に並々ならぬ思いを感じた。
<br />状況把握において、“百分は一見にしかず”に勝る物はないと思うが、ハドリアヌス帝は実際自分で足を運び、目で確認し、帝国の安全保障の再構築に努めたわけである。
<br />ハドリアヌス帝のしたことは、征服戦争をして凱旋式を挙行するわけでもなく、矢継ぎ早に公共事業をするわけでもなく、帝国の安全保障と既存の建設物の修理など、派手ではないが、パクス・ロマーナを維持することにおいて、帝国の安全と食を保障し、十分すぎる程皇帝の責務を果たしたことに異論はない。
<br />改革路線のトライアヌスを引き継いだことで、なにかと難しいこともあったかと思うが、元老院との関係維持をしながら、ローマ市民の指示も得たことに、実直な人間性の持ち主であったことが計り知れる。
<br />次巻では複雑な性格の持ち主であったことも紹介されてはいる。確かに少しは気分屋な部分もあったと思うが、皇帝という職務をまっとうするには相当な重圧と戦わなければいけない。日常の激務から、解放され、心の落ち着く場所もなく、ぶつける場所もなければ、時に投げやりになっても仕方がない。常に一定の精神性を保つことは、並外れた精神力を持ってしても相当に難しいはずである。
<br />実直な人間性であり、何事にも一生懸命に取り組んだが、不器用だった為に、著者が言う「一貫しないでは一貫した性格」と他人には写ってしまったことに人間として共感を覚えることも多い。
<br />そして、保守的であっても、ローマ人の合理性を体現したことに、まさにローマ市民の“第一人者(プリンチェプス)”であったようにも思う。
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<br />ハドリアヌス帝を彫ったコインが現在に多く残されているのと、ギリシアかぶれが興じて、現在に残るギリシア彫刻がハドリアヌス治世の時代に模刻された物が多いことに、記憶より記録に残った皇帝であったと言っても過言ではないように思う。
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