塩野七生のローマ人の物語は 発刊を楽しみにしているシリーズである。このレビューでも幾度か取り上げたが 実に面白い。
<br />
<br /> 27巻は 従来とはがらりと趣を変えて ローマ街道に絞った一巻である。ここまではローマの誕生以来 時系列的にローマを語ってきた塩野が 「時系」を放り出して ローマ街道と その一部をなす 橋について 集中的に語る。意欲的な実験作であると言って良い。こういう大技が出来るのは 歴史家ではない塩野ならではである。
<br />
<br /> 我々は ともすると 歴史上の人物を通して その時々の時代を見る。それに対して 塩野はローマ街道を作り上げたというローマの精神を 主人公にしている。読んでいて ローマ人たちが 社会というもの 政治というもの 外交というものを どう考えていたかが はっきり分かり 小気味が良いくらいである。戦いも 陰謀も 恋のさや当ても出てこない歴史小説が かくも面白いことには いささか愕然とした次第である。
古代ローマのインフラストラクチャー(社会資本)のみにテーマを絞った一巻、文庫では上下巻です。上巻冒頭部分で、筆者は「読みづらいだろうが、辛抱強く作品につきあってほしい」旨かなり心配して述べていますが、大丈夫。これまでこのシリーズを読み進んできた人なら、何の苦労もなく読めるはず。むしろ、古代ローマ人をより生き生きと感じられるようになるんじゃないかな。
<br />街道網や水道といった「モノ」に語らせることで、ローマ人の思考や民族性が眼前に立ち上がってきます。この快感、学生時代に何度も読み返した、同じく塩野さんの『海の都の物語〜ヴェネチア共和国の一千年』を思い出しました。
<br />イタリア旅行に行くのなら必ず、いやいや、フランス・スペイン・イギリス・ドイツ、西アジア‥‥かつての帝国領内を旅する人も、ぜひ一度読んでみてください。旅先で目につく遺跡の印象ががらっと変わること、請け合いです。
<br />さいごにもう一つ、これだけ図版とカラー写真が入って、安いですよ。
<br />