私もかつてはこの本に描かれているような、旅というよりも放浪といったほうがよい「旅」をすることを夢見ていた。「深夜特急」ははじめこそ面白く読み始めたが,このようにただがむしゃらに様々な土地を通り過ぎるだけのような旅が、次第にあまり意味のないものに思えてきた。3分の2ほど読み終わったころ,こういう旅は自分のやりたい旅ではないということが分かった。
<br />司馬遼太郎の「アメリカ素描」というエッセーの冒頭,確か氏の友人である在日韓国人が「もしアメリカという国がなかったら,辛いでしょう」というような意味の事を言っていた。その人はアメリカに行ったことも行く予定もないが,「アメリカ」という逃げ場所がこの地球上にあると感じることで、かろうじて閉塞した現実の人生を生きていけるという意味で言った言葉であったと思う。私は現実の「深夜特急」には共感できなかったが、いつでも「深夜特急」という逃げ道がある,というふてぶてしい考えを頭の片隅にもっていることは、あながち悪いことではあるまいと思っている。
この本ははっきりいって「麻薬」である。
<br />一度読んでみればわかるが、この本を読んだら、今の自分の立場を何もかも投げ捨ててすぐにでも旅に出たいと思うだろう。
<br />いわゆる「海外旅行」ではなく「放浪の旅」。
<br />普通の短期間の旅行にはない旅のおもしろさが存分に描かれている。
<br />特にそれが作り話ではなく実際の話であるということが、圧倒的なリアリティーを持って読者に迫ってくる。
<br />それが旅への衝動を強烈に駆り立てるのだ。
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<br />私もこの本で、会社を辞めてアジア放浪に出かけました。
本書原作のDVDを友人から貸してもらい、頭が沸騰し、原作本も直ぐに購入して全て読みました。通勤中の電車の中から、ユーラシア大陸のどこかの街へ瞬間移動している気分でした。
<br />旅に行きたくなる本です。