理系の大学院生として米国に長いこと学んでいるので、この著者の体験記は、非常に心に訴えるものがあるというか、あまりにも共感できる部分が多い。著者の体験は七〇年代のものだが、米国の大学事情など、昔も、四半世紀たった今も全然変わっていないのだと分かる。
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<br />外国に来ることで芽生える日本人としての気負い。現地の文化や人々の中へ溶けこみ、認められたくなる思いと、孤独。なんともない、非常にささやかな外国語でのコミュニケーションにも、心のなかを共有できたと思える感動。それでいて、決してなくなることのない見えない壁。
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<br />全体的にのめり込むように読めるので、断然面白い。しかし、日記的、体験記的な部分と、文化論的な考察が半々ぐらいの割合で書かれているのが、すこしもったいないような気がした(満点でない唯一の理由である)。節々に、著者が、明らかにされているよりも、もっと様々な体験をしていたということが分かる記述があるので、さらに体験記的な部分を前面に押し出し、より小説のような作品としてしまっても面白かったと思う。
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<br />渡米後まもなく感じた孤独や劣等感は、どのように克服されていったのか。完全に新米教授としての米国生活に溶けこみながらも感じた、空虚な思いはどのような体験を経て発したのか。結局なぜ、コロラド大学には残らなかったのか。
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<br />読後感は非常に良いのだが、少し読み足りない気がした。
アメリカの数学者の上層部の社会の一端が伺い知れて面白い。どういう風に職を得て、どういう具合な人間関係で、学生の様子はどうで、ーーといった日常が判って、覗き見的な見地からとっても面白い。さらに、数学者として優秀な筆者の情緒豊かな内面を知り、驚き、更に羽目を外したエピソードに仰天した。
<br /> 外国にでた一日本人の心境の揺れや変化としてみても面白い。楽しめました。
「数学者」という肩書から、一瞬難解で論文調の文章を想像してしまいましたが、実際はとても読みやすい文章でした。
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<br />アメリカ滞在中、作者が味わった孤独感や疎外感、対抗意識、仲間意識などが実に素直かつ率直に語られており、おもしろかったです。自分は「留学生」や「旅行者」という立場でしか外国滞在の経験はありませんが、共感できる部分はたくさんありました。
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<br />日本で暮らしている時はあまり意識していなくても、外国に行くと「自分が日本人である」ことを意識させられる瞬間がたくさんあります。この本の中で、作者はアメリカ社会をオーケストラ、アメリカ人をヴァイオリン、自らを琴に例えて、滞在中の心境の変化を次のように語っています。
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<br />最初の頃はオーケストラに加わることを拒み、ヴァイオリンはライバルだと思っていたが、ヴァイオリンが「素晴らしい友達」だとわかってからは自分もヴァイオリンになろうとしていた。だが、オーケストラに加わってはいても、深い部分で共鳴することはなかった。その後、琴、すなわち日本人らしく自然に振舞えるようになってからは、深い部分で共鳴できる人も出てきた。
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<br />要約するとこういう感じですが、外国滞在中、同じようなことを感じる人は少なくないのではないかと思います。自分自身、ヴァイオリンになろうとしていた時期はありましたし、そうしている日本人留学生をたくさん見てきました。言葉の面でも、英語のスラングを連発したからって
<br />相手から尊敬されるわけではない。「琴」が「ヴァイオリン」になる必要はないのです。
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<br />これから海外に行かれる方に、是非読んでいただきたいと思います。
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