良くも悪くも伊坂幸太郎らしい小説。
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<br />この人の描く人物や世界は何か現実味が薄いように感じる。ドラマ的とでもいうのだろうか。
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<br />登場人物の言動がリアルでなく、そのせいか心理の揺れ動きにもリアルさを感じない。巧い心理描写というのは、「そんな行動はとらないよ」という現実味のなさでも「まあそうするだろうな」という順当さでもなく、「ああ確かにそういう心理になってしまうかも」という着眼点の鋭さにある。
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<br />それがこの作品に限っていえば、ない。「そんな行動はとらないよ」と感じる場面が多すぎる(そもそもその場面自体にリアルさがないのだけれど)。この作品を傑作に分類できるかというとかなり疑問ではあるけれど、まだまだ発展途上の作家であるだろうし、キラリと光る魅力は感じる。
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<br />そういった意味では他の作品に期待をかけたくなる。
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<br />この作品の終盤にかけての展開はミステリには、たびたび使われている手法ではあるのでそれほどの驚きはないと思うのだけれどどうなのだろう。読んでいる途中に先に気づいたというわけではないけれど・・・。
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群像劇
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<br />様々な事情の人達が年末を過ごす。
<br />成功者、失敗者、浮気者、信者そういった人達が出てくる。
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<br />その中でも、自立した泥棒の黒澤が格好が良い。悪役みたいな人も出てくるが、両者とも哲学が一貫しているように見えて爽快だった。
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<br />終盤にかけて、パズルが組み合わさり完成を目指す。
まさに騙し絵のような作品で、
<br />だまされた人は、面白かっただろうし、
<br />だまされなかった人にとっては、あまり面白みは無いかもしれない。
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<br />幸いにも私は、最後の方まで、
<br />だまされて読み進めることができたので、
<br />楽しい読書の時間を過ごせた。
<br />ただ、読んでいる時間が楽しい本であって、
<br />読後感は爽快とまではいかない。
<br />オチよりも、読んでいる間のドキドキ感の方が優れているように思う。
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<br />複数の物語がやがて近づいてくるような感覚を得たとき、
<br />あえて推理をせず、物語に身を任せた方が、楽しく読めるような気がする。
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