たぶんこれは、19世紀と20世紀の境目の頃、明治30年代前半くらいの話。文筆家の綿貫征四郎が、春から夏、夏から秋への四季折々、身の回りに起きた不思議な事、怪しの事などを綴った日記風のエッセーのようなもの。あっちの世界に逝ってしまった親友の高堂が、掛け軸の絵の中からボートを漕いで現われたり、タヌキやカワウソ、河童などが人に化けて訪ねてきたり、この世界と異界の境界線がゆらめいて朧にかすんでいる風情が好ましかったですね。いつか見た風景のようななつかしさ、親しさを感じながら頁をめくっていきました。
<br /> 犬のゴローを始め、隣のおかみさんや山寺の和尚、長虫屋といった脇役連中も、いい味出してましたねぇ。それと、『村田エフェンディ滞土録』の主人公・考古学者の村田と、この本の主人公・綿貫とが手紙のやり取りをしていることも記されていて、何とはなしに嬉しい気持ちになりましたよ。
<br /> ≪あぁ、間違っていなかった! 本書を読んで真っ先に思ったことだ。≫に始まる巻末の解説、吉田伸子さんの心のこもった文章も素敵だ。
<br /> 竹の陰から雀が顔を覗かせているカバー装画、神坂雪佳氏の「雪中竹」の絵の風情もいい。
四季の情景などが、感覚的に描かれていて、本書を眼ではなく、感覚で読んだ。
<br />あくまで理屈ではなく、感覚だ。
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<br />季節感豊かな、この作品の情景に、自然と入ってゆける。
<br />サルスベリとの会話、まるで乾物の様な河童の話、花鬼などに違和感を感じない。
<br />そして、季節は盛夏からススキ、啓蟄、満開の桜へと移りゆく。
<br />すぐに、それらの季節に同化出来る。
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<br />読む度に新しい発見がある。
<br />物語は題材別に短く区切られているので、読み返しやすい。
<br />そして、読む度に、季節感豊かな情景に浸る事が出来る。
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<br />心が洗われる。
風景の描写、季節感など、ストーリーも素晴らしいが何よりそっちに夢中になってしまいました。目をつぶったらありありとその景色を思い描けるし、澄んだ空気も感じられそうなほどです。キャラクターも個性的で、なんとなく可愛らしい。夕暮れ前に縁側で読みたくなるような一冊です。