有名な経営者の自叙伝的著作を読んだ後、過去の経験においては読前よりも読後の方が、その経営者や商品に親しみを覚え好感度が少しアップするのだが、この経営者に関しては読後の好感度はダウンしてしまい商品に対しても魅力を感じなくなってしまった。社会的成功者の自叙伝に対して「日々の暮らしぶり」や「意外な一面」、「仕事とは別の顔」などを求める勝手な私の要望には答えた内容ではなかったからだろう。全体的に文体も硬質な印象で人としての体温があまり感じられない。商品からも作り手の魂が感じられなくなってしまった。
経営者の立場からのユニクロの歴史、そしてその経営論が書かれている。読んでみると、ユニクロという会社が、単にフリースブームにのってラッキーな成長をとげてきたわけではなく、経営者の強烈な経営理念・リーダーシップをもとに運営されてきたことがよくわかる。
<br /> そして、「一勝九敗」のタイトルどおり、ユニクロが多くの失敗を経て成功に至っていることも十分に記述されている。柳井氏はむしろ失敗を肯定的にすらとらえ「失敗するのであればできるだけ早く失敗せよ。その失敗をすぐさま次に活かせ。」という趣旨で述べている。このほかにも様々に参考になることが書かれており、ダイナミックで覇気のある経営理念は一読に値すると思う。
<br /> ただ、その反面で、(1)著者の個性が強烈であるだけに読者によっては好き嫌いがあるのでは?、(2)ユニクロの会社そのものに興味のない人にとっては社史部分はつまらないかも?、(3)巻末の23条もの経営理念は悪文だ!、などの意見もあるかも知れない。
本書では、時期がきたら経営から身を引きたいと語っていた著者。図らずも単行本発刊以降の業績悪化により、社長の玉塚氏を更迭、再登板となった。
<br /> 私も以前は、息子には(会社を)継がせないと言っていた起業家が前言を翻したり、経営から一旦は身を引きながら復帰する事例を見て、潔くないと感じていたが、本書を読み考え方が若干変わった。というのも、柳井氏のユニクロにかける執念というものが、本書からひしひしと伝わってきたからである。
<br /> ダイエーの中内氏にしろ柳井氏にしろ、短期間で急成長を遂げた企業の創業者は、それこそ凡人が想像もつかないような執念、執着心を持っており、また、それがなければ起業家としては成功しない。ならば、自分の分身である会社を、躊躇なく株主のためのものであるなどとは言えなくても、ある意味当然なのだ。
<br /> 本書と平行して読んだ「トヨタ伝」によると、私の世代から見れば歴史上の人物である創業者、豊田佐吉のDNAがトヨタには脈々と受けつがれており、創業家への求心力がトヨタの持つ強みでもあるという。
<br /> そこには、株式会社は株主のもの、という「きれいごと」では済まされない何かが存在している。
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