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魂萌え!〈下〉 ( 桐野 夏生 )

突然の夫の死後、愛人の存在の発覚や、遺産相続、息子の家庭のゴタゴタ、いかにも調子よさ気な男との不倫・・・など、想像もしなかった日々を送る59歳の敏子。自他ともに認めるおとなしい平凡な主婦だった彼女が、しばしば感情の激しいほとばしりを経験するようになり、自分でも驚く。愛人との直接対決までやってのけ、後になって深く傷つくほど、激情を爆発させてしまったりする。 <br /> <br />外的環境の変化が敏子を変えたのか、もともと内側にあったものが表に出るようになったのかわからないが、戸惑いつつも彼女はそれらを認め始める。新しい知己を得、旧友のこれまでとは違う面を知ったことも、敏子の器を広げることに貢献したであろう。「今まで思ってもみなかった感情や思いを育ててみよう。違う生活が待っているのだから、違う自分になる方がいい」 気負わずにそう考えるようになる。 <br /> <br />終盤、友人たちとの会食の場で、敏子は夫婦関係について、自分自身について、考えていることを明快な言葉で語る。それまでの総括と言っていいような内容である。上巻では「道を道とも気付かず、ぼんやり生きてきた」と振り返っていた敏子が、自分自身や夫、その関係を対象化したことの意味は大きいと思う。ぼんやりとではなく、認識し、分析する人間になったことを伺わせるからだ。愛人対決のような派手さはないが、この点が、変化といえば一番の変化なのではなかろうか。新しい人生を歩む下地が整ったのだ、そんなふうに思えた。 <br /> <br />帯には「剥き出しの女が荒ぶる」とある。この刺激的な一文より、もっと静かで確かな成長の軌跡の物語だとわたしは読んだ。 <br />

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