80〜90年代初めのバンドブームを振り返った自伝的小説…のような感じで始まり、だんだんエッセイみたいになったかと思えば、いつのまにか芸能界の裏側暴露本みたいになり、最終的には悩みを抱える若者たちへのエールみたいになる不思議な一冊。
<br />中途半端な印象もあるんだけど、次から次へと実在のユニークな人物が出てくるので一気に読んでしまう。
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<br />X−JAPANやバクチクがダイエーで買ってきたヘアスプレーで髪を立たせているかと思えば、
<br />「立たせた髪はママレモンで元に戻す」ということをルナシーに教えてもらう。
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<br />銀座のバーで暴れだした野坂昭如をタモリとデーモン小暮が止めて、それを井上陽水と奥田民生が見ている。
<br />これだけ無駄にビッグネームが揃った場面がかつてあっただろうか?
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<br />「この先どうなるんだろう」という言葉を胸に秘めつつ、かといって口には出さず、精一杯活動していたバンドマンたちは、ブームが終わってそれぞれ違う生き方になっていく。
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<br />今なおカリスマのYOSHIKIや甲本ヒロト、
<br />やってることの滑稽さが哀愁ただようカブキロックス、
<br />末期ガンにかかっても、最後まで生きたいと歌い続けた池田貴族、
<br />長期休暇をとってバス釣り三昧の日々をすごしたあと、あざやかに復活した奥田民生、
<br />「このままやっていく」の宣言通り、十年以上も芸風を全く変えなかったピエール瀧(この人と井上陽水が一番面白かった。)
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<br />聴いたことはなくても名前だけは知っているような人もたくさん出てくるので、これを読みながらCDを借りて、当時に思いを馳せるのも楽しいかも。
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<br />読みながら、ちょっと今のお笑いブームも連想した。テレビで一発ギャグを繰り返しているだけの、一見何も考えてないような芸人も、裏ではアンチファンの罵声に泣いたり、不安定な未来に怯えているのかもしれない。
<br />そう思うと、ちょっとテレビを観る目が変わりそう。
90年代の若者の表現は本の中に出てくるバンドブーム以外にプロレスブームや小劇場ブームなど、90年代の楽しさを体験していない私にとって本っ当!に羨ましい限り。
<br />今のプロレスやバンドなどは整えられてしまった表現(と思ってしまうのは私だけだろうか?)で、あの頃のゴチャゴチャしていて大人から見れば「訳わかんねぇことやってバカみてぇだな」と思うかもしれない。ただ、若者のどうしようもない悩みや楽しみって一つの表現に収まりきれるわけないじゃないか。
<br />表現をする者もいれば、それを受け取る者もいて、あの頃の人達ってとにかくバカでどうしようもなくて、すっごくガムシャラだったんだなと思った。
90年代の初頭、ホコ天・イカ天を中心に始まったバンドブームの
<br />喧騒と終焉を当事者が生々しくもほろ苦く、また愛情を込めて
<br />記した一冊。
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<br />大槻ケンヂという人はバンドブームの渦中にいて、自分が当時
<br />者ではなく、あたかも評論家のような口ぶりで状況を語っていた
<br />りもしていた(UFOと恋人)が、バンドブームから15年(!)
<br />以上の歳月を経て、「あの頃は良い想い出しか無かった」と
<br />書けるほどになったのか、と思うと、当時、ロックバンドの展開に
<br />ドキドキしていた身としては感動を隠しきれない。
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<br />当時の喧騒を最も端的に表したブルーハーツの「リンダリンダ」の
<br />一節、「ドブネズミみたいに美しくなりたい」と言う言葉に大槻
<br />ケンヂが10年以上の歳月をかけて、自分なりに残した肯定的な
<br />回答がこの本には記されている!