「茶巾たまご」
<br />松之助の縁談相手が殺された。
<br />そこからはなぜか文箱が消えていた。
<br />一方若だんなはどうしたわけか異常なほどに体調がよく……
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<br />「花かんざし」
<br />迷子として長崎屋に保護された、妖を見ることの出来る少女、於りん。
<br />「帰ったら、於りんは殺されるんだって」と言う彼女のわけは……
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<br />「ねこのばば」
<br />猫又のおしろが「仲間の小丸を助けてほしい」と頼みに来る。
<br />小丸を助けるため公徳時の寛朝を訪ねた若だんな達は、そこで死体を発見して……
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<br />「産土」
<br />佐助がやっと見つけた居場所。
<br />だが主人は奇妙な信仰に傾倒し、その被害が若だんなにまで及んで……
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<br />「たまやたまや」
<br />三春屋のお春が嫁に行くという。
<br />相手を見定めようと無断で抜け出した若だんなは武家のごたごたに巻き込まれて……
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<br />どれも軽く、つるつると読めるお話でした。
<br />「産土」だけ少しテイストが違い、ホラーのような読み応え。切なさもあってかなり楽しむことが出来ました。
<br />周囲では貧乏や破産が日常茶飯事なのに、ひたすら安泰で快適な長崎屋さんに安心できる一方、少しのきっかけで破産が待っている江戸の町と、それを当たり前に受け容れている町人達に感じ入りました。
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<br />妖たちの少しずれた考え方や鳴家のかわいらしさにも相変わらずほのぼのできます。
<br />個人的には、もう少し屏風のぞきに活躍してほしかったなあ、と思います。
待ちに待った文庫本化。短編が5つ収録されてます。「たまやたまや」でお春ちゃんが嫁に行くシーンは感慨深いです。ただ全体的に分かりにくい表現があったり、馴染みのない言葉の説明が無かったりするのはマイナスかな。自分で調べろと言われればそれまでですが。
貧乏神をひらってきたり、猫又を助けに行ったりと、相変わらずの若旦那と妖たち。
<br />長崎屋の中はいつものんびり、にぎやかで、楽しい妖たちに守られているけれど、外の世界には、ささいなきっかけやすれ違いで、取り返しの付かない過ちを犯してしまう人がいる。
<br />若旦那が得意の推理で犯人を捕まえるものの、捕まえてすっきり一件落着!という気分にはなれません。なにかしら考えさせられる犯人たちの言い分や事情が、まるっきりの他人事ではないと思えるからでしょうか。
<br />今回は、長崎屋に来る前の佐助さんの過去のお話もあり、これがまたなかなか切ないのです。
<br />「若旦那に死なれたら あたしはまた一人になってしまう」
<br />強そうな佐助さんの切ない気持が、胸に刺さるかんじで、ちょっとほろりときます。