面白い!昭和の裏面史を書いたものは傑作が多いが、昨年の「下山事件」級の傑作。
<br /> 大山はいわずと知れた空手界の巨人、現在の格闘技ブームもその源流をたどると極真、大山にたどり着くこと多い。しかし、その生涯は「空手バカ一代」を代表とするような虚飾にまみれたものだった。
<br /> 本作は朝鮮半島から密航して日本に上陸した在日一世・民族活動家としてのチェ・ヨンイ/大山倍達の真実の姿が描かれている。またそれに関連してチェを中心として戦後混乱期の在日朝鮮人の活動、抗争、暴力、犯罪などが生き生きと描かれている。
<br /> 戦後混乱期の在日韓国人のアウトローヒーロー「チェ・ヨンイ」がどのような経過をたどって日本人の国際空手家「大山倍達」になったか?空手に興味のない人も戦後史に興味のある方はぜひ手にとって読んでいただきたい。
生前から大山氏本人が否定していた『大山倍達伝説』の虚構と、これまで意図的に隠されていた個人史を丹念に発掘して、一冊の本にしたことは意味があると思う。だが、公式記録が残っている物はほとんどなく、関係者の証言しか根拠がないのでノンフィクションとしては弱い。だが、これは第2次世界大戦前後の、公人ならともかく一個人の人生なので仕方がないだろう。(この部分は塚本氏)
<br />しかし「ないことの証明は難しい」とよく言われるが、”アメリカ遠征”の記録をわざわざ探しに行き、結局見つからなかった、と言いながら、戦っていたかもしれない、などと書くのはどうかと思う。これまで多く出た”伝説本”と変わらないのでは?(この部分は小島氏)
<br />関係者も亡くなられている人も多いが、生きている人には証言を拒否されている。私は著者の二人を知らないのだが、プロフィールを読む限りでは”極真インサイダー”だったこともあるようだし、弟子たちもそれぞれ立場があるので発言できないだろう。今や戦後の米軍キャンプなど知らない弟子の方が多かろう。それを差し引いても、もっと早く書かれるべきだったと思う。
<br />しかし、この二人は氏を「世界で戦った日本のサムライ」から「日韓の歴史をつなぐ影のヒーロー」にしようとしているのではないか?それでは『空手バカ一代』と同じだ。
<br />佐野眞一や吉田司、あるいは故・本田靖春だったら同じ資料、証言が基でも違ったものを書いたかもしれない。(今、佐野と吉田は満州(大陸)にハマリすぎていると思うが・・・)
「空手バカ一代」で知られるゴッドハンド大山倍達の評伝。世間に流布する様々な伝説を鵜呑みにすることなく、真実の彼の生涯に迫る。
<br /> 戦後まもなく大山が身を投じた民族活動は歴史の渦に飲まれて活動内容の詳細が不透明だが、本書では関係者の取材も多岐に行なわれている様子で詳細に記述しており興味深く読めた。
<br /> 本書は様々な伝説が虚飾であることを赤裸々にするが、そのような伝説に頼らずとも大山倍達が偉大な人間であることが十分に伝わる内容であった。