ある意味、サイバラさんの新境地ではないかと思ったりする。
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<br />描かれる世界は、出身をモチーフにした、いつものサイバラワールド。
<br />でも、ここまで「女」と「恋」を前面に据えた作品はこれまで余りなかったのでは。
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<br />今までの作品で「たくましい女」はいっぱい描かれてきた。
<br />この作品にもそんな女性が満載だ。
<br />でも、そんな女性にも弱い面と強い面があって、思わず守りたくなる、そんなシーンを容赦なく温かい筆致で描き出す、そこにサイバラさんの弱さと強さを兼ね備えた両面を見る。
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<br />ちなみに、私の連れ合いの一番お気に入りのシーンは、ロクデナシの夫の腹を刺した登場人物が「やっぱ人生はじけてみるもんやで」と笑い飛ばすシーンだ。
<br />男としては、かなわないよねぇ。
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<br />主人公のなおこ(狂言まわしのようになる時もないではないが、最終回で主人公とわかる)への繊細な描き方は、これまでの作品の叙情だけではない、生々しい面を感じる。
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<br />サイバラさんの作品を読んできて良かった、と思わせる一冊です。
息をして歩くことは、本来とても苦しいことである。
<br />だから、上手に出来る人は、途轍もなく遠い場所へいけるし、
<br />下手な人は何となくその辺りで挫けてしまう。
<br />必然的に距離が生まれ、格差が生じる。
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<br />勿論、遠い場所に行ったとしても、そこに何が待っているわけでもない。
<br />より遠い場所に行ける、そんな風景を見ることが出来るだけである。
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<br />物事の本質に気が付くと、例え挫けたとしても、自分が駄目だとわかっても、
<br />ずっと信じられる何かを持つことが出来るのだ。
<br />でも、それは遠い場所からはなかなか気付かない、一点の光。
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<br />血と涙と汗を酒で割った女性たちが、
<br />どうしようもない精子たちを嘲笑いながらも、
<br />そこに縋らざるを得ない弱さを醸し出している。
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<br />しかし、誰よりも弱いからこそ、誰よりも人生が分かる。
<br />声を張り上げる。暴力を振るう。人一倍、傷つく。
<br />逆説的な人生の答えを、柔らかいタッチととんでもない毒で織り成した作品。
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確かに、一生懸命やら、だらしないやらのいろんな生き様がある。でも、みんなが納得してしまっている、それなりの希望のなさ、それなりの諦観。どうしても納得できないという不条理が感じられない。「ぼくんち」で胸をゆさぶったサイバラの真骨頂が見られない。サイバラが大好きなだけに嘆息。読むな、買うな、というわけではありません。サイバラファンはこれを読んで、サイバラにハッパをかけるべし。