地方都市にも円空展が回ってきて、香川県歴史博物館に馳せ参じた。底知れないパワーと得体の知れない霊力に圧倒されたが、ありきたりの解説書では飽き足りないでいた。
<br /> この度、梅原猛「渾身の力作」に接し、独自の円空観に改めて刮目する羽目に陥ってしまった。臆することなく、従来の説の誤謬に忌憚のない批判をすることを厭わない。個々にわたる指摘はさておき、根源的テーマ一つにしぼれば、「円空は護法神を多く作って、日本の神々がすべての護法神となって仏法を護ることを願った」ということであった。
<br /> ところが、それ以降、「神仏分離」「廃仏毀釈」で円空の期待に反して「神が仏を滅ぼし」今は「少なくとも公的には神も仏も失った国」となったと先鋭的な断罪を下している。単に個人的円空論ではなく、日本のあるべき姿を示している文化論「日本の未来論」とみなしたい。心の清々しいひたむきさ、何ものにもとらわれない「思惟の深さ」を、「円空」に、そして「梅原猛」に等しく感じないではいられない。
円空研究は多くは民間の名も無い研究者が地道に献身的に行ってきたが、いまだ多くの謎や誤解も残されている。これら多くの研究を詳細に顧み、さらに検証を根気強く行いながら統括する研究者が出てくることは強く望まれていたとは思う。しかし、その労力を考えると極めて困難であることは確実であるが、今回、梅原猛氏がついにやってくれた。
<br />このように、研究書としての側面の強い本であるので、円空そのものに強い思い入れがなければちょっと堅苦しく難しいかもしれない。しかし、よく読むと、梅原氏の円空への熱い想いに感激し、こちらもさらに円空に興味が出てくるという本でもある。
<br />それほど円空への想いの強い梅原氏であるので、個人のエゴで円空像を歪めた研究者に対しては、それが権威者であろうと全く容赦はない。ここから、研究者に不可欠な倫理観や、80歳を超えてもいささかも衰えない梅原氏の意欲や情熱も感じ取って欲しいと思う。
<br />この本により、円空がいっそう注目されるようになると思われるが、それは非常に良いことであり、喜ばしい。