ともかく面白いというか、凛としていると言うか、いいねえ「誰にも使命がある」と教え諭す父親も自分の息子の死に関係した人間を医者としての使命で助けだそうとした西園も。恋人の仇を討とうとするが、最後には利用しようとした看護婦にやはり愛を見出す穣治の良心も。こじんまりまとまり過ぎていると言えばそれまでですが、東野圭吾は、やはりいい。
夕紀の父親は、大動脈瘤の手術中に亡くなった。手術を担当した医師と母の間には
<br />隠された秘密があったのか?夕紀は研修医となって、かつて父を手術した医師西園が
<br />勤める病院にやってきたが、その病院に重大な危機が!
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<br />人の命を救うための場所である病院に仕掛けられた罠。危機的な状況の中で黙々と
<br />命を救うために働く人たち。その描写は感動的だった。人には全うしなければならない
<br />使命がある。それは、病院に罠を仕掛けた犯人にもあった。「自分の使命を果たす
<br />ために何の関係もない人たちを巻き込んでいいのか?」犯人の心の葛藤は続く。
<br />夕紀の父親の死の陰には何があったのか?病院の危機をどのように乗り切ることが
<br />できるのか?このふたつは、読者を一気にラストまで走らせる。ラストの1行は胸に
<br />ぐっときた。人としての使命、そして人の本質である魂。どちらを優先するのかを
<br />決めるのは、「命」なのだろうか。ずしっとした手ごたえのある、面白い作品だった。
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サラリと読めました。登場人物の人数が少なくないにもかかわらず、ストーリー展開が滑らかのは、いつもながら「さすが」と唸るところでした。しかしながら、医療現場の感覚からすると「これはちょっと」と思われる箇所が見受けられることと、偶然が重なりすぎて途中から展開が予想されるところに、物足り無さを覚えます。ラストシーンに期待していたので、最後の数行については、期待はずれでした。「容疑者・・・」のような感動は得られませんでした。これらを斟酌しても、安心して楽しめる本です。