ローマ人の物語〈5〉― ユリウス・カエサル-ルビコン以後 みんなこんな本を読んできた ローマ人の物語〈5〉― ユリウス・カエサル-ルビコン以後
 
 
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ローマ人の物語〈5〉― ユリウス・カエサル-ルビコン以後 ( 塩野 七生 )

なんでこんなに心が動かされるのだろう。2000年以上前に生きた不世出の天才カエサルの一生は。 <br />いつも冷静すぎるほど冷静な著者が、カエサルについては、感情を隠し切れないほど厚い文章を書く。 <br />「ローマ人の物語」のシリーズの中では、ある意味この章は異質かも。 <br /> <br />ただ、ギリギリのところで著者の客観的な目が残っているから読みやすいのだけれど、 <br />何度読んでも最後はなんとも言えない切ない気持ちにさせられる。 <br /> <br />「兎に角、これを読まなくちゃはじまらない!」そんな一冊です。

 もう本書全体から、著者のカエサルへの思い入れがあふれ出ている名作です。伝えたい魅力は無数に思いつき、すべてを書き連ねていたら、それこそレビュー規約をオーバーしてしまいます。そこで、私もカエサルと、著者に倣って、ひとつ箇条書きで本書の見所と感じたことを書き綴ってみたいと思います。<p> 1、主観も交えながらも感情に走らない客観的な視点(本書は一応カエサルが主人公な訳ですが、敵役であるポンペイウスや無為の暗殺を実行したブルータスらにも理解すべき部分があったことをしっかりと指摘している)2、小さな挿話でも無下にしない(カエサルの頭に何が載るかも重要ですが、カエサルの頭から何が抜け落ちて行ったかも興味深い事実。このような身近な話題は、厚みのある歴史叙述には重要)3、目先のドラマより深い歴史の面白さ(私はこの時代を扱った歴史ものの中でクレオパトラが異様に高く評価される、判官びいきにも似た状態をつとに苦々しく思っており、かといって明確な反論が出来る力もなく、どうもこの時代自体敬遠しがちだったのです。ところが著者は、自分も女であるので、女の浅はかさとは言いたくないが、クレオパトラは浅はかであった、と一蹴。その鼻が高かろうが低かろうが、歴史の趨勢にさしたる影響のないことを理路整然と証明してくれ、私は思わず喝采を叫びました。これこそ目立つものばかりに徹底的に光を当てまくる、薄っぺらい歴史ものでないことの証拠)4、個々のものを重視する帰納的姿勢(戦時、平時を問わず、カエサルの行動を一つ一つ追って行くことによって、むしろカエサルとはどんな人間だと説明することなくその姿を自然と浮き彫りにしていく。著者の追体験をしているようで、まったくうまい)<br> 以上は私の感想ですが、本書は、おそらく読者の方それぞれにまた違った無数の感銘を与えてくれることでしょう。

カエサル(シーザー)は、軍事、民政両方の天才だった。帝政に向かってローマを導こうとしたのも、それが超大国となったローマを統治する最も適した政体だと考えたからだ。ところが王政アレルギーの強い一部の人間たちによって暗殺されてしまった。ここで驚くのが、暗殺者たちが、「カエサル後」について何も準備していなかったことだ。カエサルの信条である「寛容」、未来を見通す透徹した眼、偉大な人間を失った悲しみが、読者にも伝わる。

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ローマ人の物語〈5〉― ユリウス・カエサル-ルビコン以後