十数年前に始まったローマ人の物語が遂に大団円を迎えようとしています。その予感を感じさせる内容となっています。塩野七生さんもかなり迷走しながら今まで走ってきたと思います。しかし遂にその行く末が見えた、あるいはその結末を書く覚悟が出来たのではないでしょうか。
<br />ローマ時代というと大掛かりで大層な歴史と敬遠する方が多いと思いますが、これはそのまま日本のこれからのあり方を示していると思います。ここまで走ってこられた塩野さんの脚力(腕力?)に賞賛を送ります。
既に多くのレビュアーの方が本書について論評されているので、私がさらに付け加えることはもうほとんどないのだが、あえて書かせてもらうと、本書においても優れたリーダー論が展開されていることに注目してほしい。リーダーに求められる資質とは何ぞや、が本シリーズを通してのテーマの一つと考えるのであるが、本書で最も私の注目を引いたのは「実力主義とは、昨日まで自分と同格であった者が、今日からは自分に命令する立場に立つ、ということでもある。」の一文である。実力主義の定義としてこれほど私に納得のゆくものはない。実力主義を標榜するわが社・部門で起こっていることはまさにその通りです。そうはわかっていても、現実を理性だけで受けとめるのは難しいもの。作者は皇帝アウレリアヌス、プロブスの悲劇の原因を部下との距離が近づきすぎたからだと喝破します。かといって、距離をとりすぎると、親近感を欠きすぎることになり、本書からは離れますが、皇帝ティベリウスのような不人気を招く。とかく、組織・リーダーの健全なあり方は難しいものです。組織のあり方としては、カラカラ帝のアントニヌス勅令が、悪平等を生み出し、それまでの階層はあるけれども実力で上昇可能なピラミッド型の組織から、階層が固定された社会に変貌し、ひいてはローマ人らしさをなくす原因になったとする指摘は、私がこれまで考えもしなかったものだけに、その指摘の鋭さに感服します。
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<br />本書は軍人皇帝の時代を中心に、混乱に満ちた、古代ローマ史ファンにとっては苦痛の時代、おそらく誰にとっても登場人物が多すぎて読むのが大変な時代を扱っていますが、作者は上記のように、リーダー・組織のあり方についての意識をベースにこの時代を簡潔にまとめており(簡潔すぎる感じもちょっとしますが)、その努力に対して星5つを献呈したいと思います。
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今回はカラカラ帝が一番印象的でした。
<br />カラカラ帝によるアントニヌス勅令。
<br />これによるローマ市民権の取得権から既得権への方向転換。
<br />どうやら、著者はこの権がローマが衰退に向かった最大の
<br />原因であると考えている様子が伺えます。
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<br />一見、問題がないように見える権利の平等、既得権化が
<br />ローマを弱くして行く。
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<br />ローマを支えていたのは富裕層による道路などのインフラの提供、
<br />一般市民による軍団への参加、血の税金による公共心ということを
<br />えてみればこれ以降はローマ市民権は名誉の印とはなりませんから、
<br />公共心を喚起する力はなくなります。
<br />人間は自分自身は公共体にとって相対的に特別な存在であるという
<br />認識が公共心をもつことになるのは当然ですから、
<br />人間の心理からみても納得できる論です。
<br />そのことは逆に公共体から別に特別な扱いをされていないことを
<br />考えてみればわかります。そのような人たちがその共同体を
<br />強く大切にしたいとは考えないでしょう。
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<br />現代では民主主義というものは私は疑いなく良いものだ
<br />という認識がありましたが、ニートとかフリータとか、
<br />どうみても公共心が薄い人たちが現在に発生していることを考えると、
<br />この本は平等な既得権というものは本当に無邪気に良いものだと考えて
<br />いいものか?という疑問を私の心に浮かばせたとても印象的な
<br />一冊となりました.