相次ぐ蛮族の進入に翻弄され、70数年のうちに22人の皇帝が相次いだ時代(『迷走する帝国』)を経た次の年代。
<br />帝国を4分割し、4人の正帝・副帝により職務を分担する「四頭政」を導入し広大な国土を治めたディオクレティアヌス帝、キリスト教を公認しコンスタンティノポリスへの事実上の遷都を行ったコンスタンティヌス帝の2皇帝の治世を描く。
<br />もはやここに至るとローマ帝国は著しくその内容を変容してしまうことに気づかされ、ある種の寂寥感を伴う。
<br />著者は単に権力の興亡・皇帝の事績を追うだけではなく、シリーズの初期の巻の中で著者が礼賛したローマをローマたらしめていた数々の特性・社会制度・考え方が失われていく様を丁寧に描いていく。シリーズを通じての一大テーマ、「ローマ帝国はいかにして隆盛し、また衰退したのか」に繋がる一端に触れ、知的好奇心の冒険ができる
私は初めて世界史を学んだとき、民主主義というものが実は近代ではなく、
<br />2200年以上前のギリシャ文明によって作り上げられたシステムと
<br />いうことを知って驚いたことを思い出します。
<br />
<br />一神教システムより民主主義によるシステムは前提に無理がなく
<br />論理的にすっきりしているシステムが一度なぜ使われなくなって
<br />しまったのか、不思議に思った記憶があります。
<br />
<br />ローマにしてみても、王政、寡頭政、帝政前期までは、
<br />存在の証明不可能な神というものを前提にしきった政治システムに
<br />なっていませんし、ここからどうやって一神教が絶対の前提になる
<br />宗教システムが入りこんで暗黒の中世という時代になってしまったのかが、
<br />この巻になるまでまったく連続性が感じられませんでした。
<br />
<br />しかし、この巻になって職業、居住の自由がなくなり、
<br />ギルドの前提となる組織体ができてきたりして、どんどん中世
<br />らしくなってきています。
<br />
<br />中世はローマによるシステム変更を引き継いでいる。
<br />歴史はやはり連続しているのだなあと私はこの巻で腑に落ちました。
<br />
<br />しかし、やはりアントニヌス勅令は大きかったですね。
<br />これによってローマ市民権は属州も含めてすべて平等になってしまった。
<br />それゆえ、人が人の上に立つ権威付けができなくなってしまった。
<br />人は法の下に平等になってしまったがゆえに、すべての人にトップになる
<br />チャンスがある。
<br />権威の裏付けがないがゆえに皇帝がくるくる替わるようになってしまった。
<br />だから、最終的に権威を導入するためにキリスト教に頼るようになった。
<br />
<br />うーん。連続してますね。
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最近は年末ぎりぎりに最新刊が出るパターンが定着したようで、第14巻が待ち遠しい季節になってきましたが、改めて第13巻を振り返ってみると、ページ数の少なさといい、シャルルマーニュを神聖ローマ帝国皇帝と呼ぶ初歩的な間違いがあったりで、作者の息切れかと心配になります。いよいよ残り2巻、背教者ユリアヌスも登場することだし、是非作者自身の最後の努力を見せてほしいものです。なお、コンスタンティヌス大帝が帝国を統一して以降、特にコンスタンティノープル建都の記載があっさりしているのが物足りない人は、大阪市立大学の井上浩一教授著・講談社現代新書の「生き残った帝国ビザンティン」の「ローマ皇帝の改宗」「新しいローマの登場」の章が、わかやりやすい記述で面白いエピソードや伝承を簡潔に紹介してくれており、本書とあわせて読むとこの時代に対する興味が一層深まるでしょう。