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死顔 ( 吉村 昭 )

 平成18年(昭和81年)永眠された吉村昭の「昭」の字は、昭和2年生まれなので名付けられたと推察しております。私事にわたって恐縮ですが、同年夭折した私の実兄も「昭」でありましたから、その生まれ変わりのようなこの作家をこれまで私淑してまいりました。畏れ多いことですが、その人間、作風の高潔、尊厳に浸っていた一読者に過ぎませんので、それは少しあつかましいことではありましょう。 <br /> さて、表題作を吸い込まれるように拝読いたしました。文字どおり遺作「死顔」はご自分の死を予感しての清冽きわまりない作品です。次兄の死を距離感を置いて、肉親の関わり方が淡々と、しかも人間愛を包み隠して描かれており、この思念の作家円熟の絶筆となつているのではないでしょうか。 <br /> ふと、思ってみたのですが、この作品には自分の死の予感についてはあえて伏せているとみられるのは、「自らの潔い死」をさらけ出さないで、兄の「死顔」の奥深く自らの「自画像」を込めていたのかもしれない。  <br /> 蛇足にはなりますが、昭和と共に生まれ、昭和を真剣に生きた人々の隠された生の軌跡を丹念に描いた吉村昭は平成年間に生き延びて昭和八十年を最期まで懸命に生きた「稀なる昭和の高潔なる作家」ではなかったかと、ひそかに思っております。氏の死が報じられた直後から、その名をひそかに筆名にしております。

実はいまだ「ひとすじの煙」と奥様津村節子氏の「遺作について」しか <br />読み終えていません。 <br />辛いのです。30年来、吉村先生の作品を読んできたものとしては、 <br />これが最後で、そして先生の決断。言葉がありません。 <br /> <br />「ひとすじの煙」の宿のまわりの自然の描写・・・これぞ吉村先生の文体と <br />いうべきもので、冷徹な目とその底にある熱い思いが感じられます。 <br />文体などとは多分今の若い作家には関心ごとではないでしょう。 <br />しかし、先生はご自身の文体を創り上げるの非常な苦心をされています。 <br />すさまじいまでの第一級の文章力です。そして今では少なくなった <br />「美しい日本語」を感じさせてくれます。 <br />そして「人間」を見つめる冷静さとその中にある思いやりと暖かさ。 <br /> <br />あとの作品はゆっくりと心を落ち着けながら読みます。 <br />吉村先生 中学生時代から読み続けた先生の作品とそれを通じての先生の <br />お人柄、そして人間としての高潔さと尊厳の大切さを教えていただきました。 <br />ありがとうございます。本当にありがとうございます。

 あなたはわたくしが身内に決断をくだしたときと <br />同じことをみずからしてしまった。奥様はさぞ辛かったのではないかと <br />お察しいたします。死にたくないとあがく者と、自分の生をみずから <br />結実させてしまう吉村さんはご自分で納得していたでしょう。 <br /> 残されたものは辛いでしょう、しかし、死は自分で選ぶものなのでしょう、 <br />生と死の狭間でゆれる吉村さんのこころが分かる様な気がいたしました。 <br /> 意識があればこその行為だったのでしょう

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